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「……本当にこんな派手な格好で行くの? 祝い事でもないのに」
処刑当日。
紅花は、魑魅斬に裾がひらひらした赤色の襦裙を着せられ困惑していた。それだけでなく髪も一つに纏められ、金色の豪華な髪飾りまで装着されて、化粧までされている。白粉を叩き、頬に烟脂を付け、眉間に花模様を描いてもらった。冥府に来てから、このように着飾ったのは初めてのことだ。
「皇后の前で行う公開処刑は特別なことだからな。どうだ、俺、化粧うまいだろ?」
化粧を施してくれた魑魅斬は得意げだ。
「確かに、いつも可愛い自分の顔がより美しく見えるわ……」
鏡に映る顔を見て呟く。
「嬢ちゃん、自信あるな」
「まぁ、紅花は実際顔だけは整ってるからね……」
苦笑いする魑魅斬の隣には、昨日から起きられるようになった玉風がいる。まだ本調子ではないようだが、食事もよく食べるようになってきた。
「顔だけって何よ」
「顔だけでしょーが! ちょっとは常識ってもんを身に着けなさい、あんたは」
以前のように怒る元気も出てきたようで、ひとまず安心だ。
「さっさと終わらせて帰ってくるから、安静にしててね。玉風姉様」
処刑のため特別に用意された蛇矛という武器を手に、冷宮を出た。
■
灯された炎が赤々と燃えている。処刑場と呼ばれる円形の広場は、貴妃の宮の裏側にあった。地面の至る所にこびり付いた血の痕がある。ここでどれだけ多くの鬼や人が殺されたのだろう。
円形の処刑場を囲むようにして数多くの観客席があり、皇后たちのいる観客席には特別な天幕が貼られている。皇后の隣には宋帝王である飛龍が座っており、こちらを見下ろしている。文字通り高みの見物だ。
処刑場の中心に、酷く怯えた様子の鬼がいた。ぐるぐる巻きに縛られており、これから殺されることを恐れているように見える。
(……気分が悪い)
悪人だからといって、こんな晒し者のようにする必要があるのか。
観客席の下女たちがくすくすと楽しそうに語り合っているのが見える。きっと観客たちにとっては、悪者がやっつけられる喜劇を観ているのと同じ感覚なのだ。
(さっさと終わらせよう。こんな趣味の悪いことは)
蛇矛を持ち直す。蛇矛は蛇のようにうねっている刃先が特徴で、刺されたら痛いのは当然として、傷の完治が遅いとして知られている。失敗して痛がらせるよりは一度で殺してしまった方が本人も楽だろう。
鬼の急所は頭だ。頭を一発で潰しにかかろうとした、その時だった。
『どうしてどうしてどうしてどうして。俺は何もしていないのに――……』
「…………」
蛇矛を持つ手が止まる。
目の前の鬼の心の声が聞こえたからだ。
紅花は手を下ろした。
「犯人、この鬼じゃありません」
天幕のある特別席に向かって声を張って伝える。
武官や侍女たち、他の観客がざわついた。処刑人が何の命令も受けずに突然処刑を中断したのだから当然だ。勝手な行動は、この処刑を主催している王や皇后に対しての無礼に当たるだろう。
しかし、冤罪と分かっていて殺す程、愚かではない。
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