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「言えないわ」
「口を割らせてやろうか? 手段ならいくらでもある」
「地獄で一兆年以上の時を過ごした私が、少しくらいの拷問で口を割るとでも?」
気の遠くなる程の時間を苦しみながら過ごしてきた。ちょっとやそっとでは折れない自信がある。
しかし、飛龍はくすくすとおかしげに笑う。
「分かってないね」
そして、紅花を木に追い詰めて囁いた。
「快楽地獄は味わったことないでしょ?」
「……は」
「俺、本来は罰する方が好きなんだよね。裁くだけじゃなくて。か弱い女の子が怯えながら俺の裁きを待ってる時、俺の手で罰したくてぞくぞくする。でも、王という立場じゃ判決を下すことしかできないからさあ。俺の日々の欲求不満、君が発散させてくれる?」
こいつは本当に邪淫を裁く宋帝王なのだろうか。宋帝王として問題があるのではないか。
心の内で色々考えている間にも飛龍の手がゆっくりと伸びてくる。このままでは本当に実行されてしまいそうな雰囲気だ。紅花は咄嗟に白状してしまった。
「真犯人が天愛皇后様の身近な人物である可能性がある。その真偽を確かめるために侍女たちにも抜き打ちで宮殿内を見たい。幽鬼を呼び寄せるために、貴方が必要なの」
「は?」
「皇后の宮殿は神聖なものとされているでしょう。余程のことが起こらない限りは私が立ち入ることを侍女たちも皇后も嫌がる。それに、正式に外部から宮殿に人を招くとなれば必ず侍女に知らせが行く……抜き打ちで行うには、侍女たちにとっても〝突然の異常事態〟を起こすしかない」
作戦を暴露した後、おそるおそる飛龍を見上げる。愛する妻を危険に晒すなと激怒するだろうか――と悪い予想をしていたが、飛龍は思いの外、面白がっているようだった。
「そういうことかぁ」
「……止めないの?」
「俺が傍にいれば幽鬼が襲ってきても天愛のことは守ってやれるだろうから。そういう意味でも、今夜は天愛のところへ行ってやるよ。ついでに、幽鬼が現れたらすぐ鬼殺しを呼べと指示してあげる」
「随分協力的なのね」
「君がどう真犯人を捕まえるのか見たくなった。俺を楽しませられるように、頑張ってね」
飛龍は不敵な笑みを浮かべて紅花から手を離す。
その目が恐ろしく、ぞぞぞっと寒気が走った。おそらく飛龍にとっては未知の生命体がどう動くかを観察するのと同じような感覚なのだろう。
目的は、宮殿内にまだあるかもしれない花を探し、花の声を聞いて犯人を特定すること。飛龍の協力も得られるようであるし、必ず成功させなければならない。
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