一幕

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 宮殿内部は、豪華絢爛という言葉がぴったりな、立派な造りをしていた。灯りがないため薄暗いが、床や天井は見惚れる程作り込まれていた。 (これが皇后様の宮殿……さすが、張り切ってるわね)  鬼殺しを住ませている冷宮とは大違いだ。元々あの冷宮は、罪を犯した王の妃を閉じ込めるために造られたものと聞く。造りの丁寧さに差があって当然かもしれない。  じろじろと宮殿の様子を見ていたその時、奥から何かが割れる音と悲鳴が聞こえた。魑魅斬が「大丈夫か!!」と叫んで悲鳴の聞こえた方向に走っていく。  この隙に、と紅花は掃除鬼に描いてもらった宮殿内の間取りを思い出しながら、侍女たちが普段使っている部屋へ向かった。  花がまだ生きていれば、声が聞こえるかもしれない。しかしそれ以上に悲鳴や何かが割れる音の方が大きく、花たちの微かな声など届きそうになかった。  騒ぎを聞きつけて慌てて逃げ出したであろう侍女たちの寝室は、同じ宮殿内とは思えぬ程に質素だ。侍女たちが眠る寝台である(ショウ)がぼろぼろの状態でいくつか並んでおり、冷たい風が吹き抜けているだけでなく虫も湧いていた。これでは紅花の住んでいる冷宮の部屋と変わらない。  皇后の部屋はこれよりもっと豪華なものだろう。こんなところで生活をしていれば、自分たちより下の奴隷という身分であったにも拘わらず自分たちよりも立派な暮らしをしている天愛皇后に嫉妬しても無理はないのかもしれない。  奥まで進んでいくと、花弁が落ちていた。しおれた花弁だ。  紅花はその花弁を辿り、侍女の寝室に直結した物置きに足を踏み入れた。一見特に何も変わったところはない物置きだ。しかし入ってすぐ、紅花はそれを発見してしまった。  ――――何度も踏み躙られたであろう、茎の部分から手折られ、ばらばらになった枯れた花。  その花々から声は聞こえない。もう、死んでいる。 「……花だって生きてるのにな」  紅花はぽつりと呟いた。
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