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「この下劣な鬼殺しは、あろうことか後宮の掟を無視し、無断で宮殿に侵入しましたわ!」
侍女たちの怒鳴り声が聞こえてきたので、魑魅斬がどこにいるのかはすぐに分かった。その近くには、片付けられた幽鬼の死体の箱がある。
侍女、特に皇后に仕える侍女というのは、元々は育ちの良い女性が多い。その上皇后に仕えているのだ、それなりに自尊心はあるだろう。自分たちの勤める宮殿に後宮内の〝汚くて臭い仕事〟を全て担っている鬼殺しが入ってくれば、穢されたと感じてしまってもおかしくはない。
激怒する侍女たちを見て、ここで紅花が出ていけば火に油なのではと考え立ち止まった。
「けれど、この鬼殺しがたまたま入ってこなければ危うかったのでしょう?」
暗くてよく見えないが、天愛皇后の声もした。ということは、その隣の人影は飛龍だろう。
「しかし、天愛様……! 入り口は施錠されていたはずです。この者は一体どうやって……ああ、汚い! 早くその箱を外へやってください!」
「ああ、錠は俺が来る時にかけ忘れたんだよ。ごめんね?」
魑魅斬の存在を嫌がる侍女たちに向かって、飛龍があっけらかんと言う。
確かに、許可なく立ち入ろうとした割には予想していたよりすんなりと侵入することができた。あれは、飛龍が表の入り口の鍵を開けておいてくれたからか。
「この者を罰しないということですか!? この宮を穢したのに!」
「助けてくれた相手にその言い方はないのではなくて?」
「助けてくれなんて頼んでいません!! このような身分の低い者に助けられるくらいなら、死んだ方がましです!!」
侍女が、天愛皇后の言葉に対し悲鳴のような声を上げる。
その発言は元々奴隷であった天愛皇后に失礼なのではないだろうか。しかしこれで、侍女たちにはやはり身分差のある者に対する軽蔑があることは確認できた。
「――確認していただきたいことがあります、天愛皇后様」
ここでようやく、紅花は暗闇から姿を現した。
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