一幕

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「あいつらにはほんとに罰を与えなくていいの? 俺はちょーっと、不敬すぎて殺したいなぁって思ったけど」 「飛龍は血の気が多いわね。わたくしがいいと言ってるんだからいいのよ」 「ま、天愛が言うならいいけどぉ……」  飛龍がつまらなそうに唇を尖らせる。かの宋帝王も、正妻の前では弱いらしい。 「貴女には褒美を与えないといけないわね。何でも一つ言うことを聞いてあげる」  天愛皇后が紅花に視線を移してきた。  褒美など与えてくれるのかと驚いた。あくまでも天愛皇后の主催した処刑を独断で中止させてしまったことへの償いとして犯人捜しをしているつもりだったので、何かもらえるなどとは予想していない。  少し嬉しく思ったところで、これも天愛皇后の人心掌握の一貫なのでは、とはっとして咳払いした。 「大変有り難いお言葉です。では……私と同じ、鬼殺しとして後宮に連れてこられた玉風姉様を、家に帰すか、あるいは、後宮内でそれなりの生活ができるようにしてください。玉風姉様は鬼の死体の臭いに弱いです。あれではとても鬼殺しとして働けるとは思えません」  天愛皇后が意外そうな顔をする。 「へえ。お友達?」 「姉貴分です」 「何でも聞くと言っているのよ? 他人のことでいいの?」 「玉風姉様が後宮へ連れられてきたのは私のせいです。その責任を取りたいんです。――自分のしたことの責任は必ず取る、閻魔王様のように」  胸を張って言い切ると、天愛皇后はしばらく紅花を見つめた後、ぷっと噴き出した。 「ふ、ふふ……あはは……あーっはっはっは!」  皇后らしからぬ高笑いをした彼女は、なかなか笑いが収まらないようで、いつまでもぷるぷると肩を震わせている。  そんなにおかしなことを言っただろうか。 「閻魔王、閻魔王って。そればっかりだね君は」  飛龍が呆れたように見下ろしてくる。 「好きなんだから仕方ないでしょう」 「好き!? あの冷酷無慈悲な男が!? ふ、ふふっ……あはは! あはははははは! 貴女相当な変わり者ねぇ!」  飛龍へ言い返したその言葉も天愛皇后にとっては面白いものだったらしく、更に笑われる。  そして、笑いすぎて出た涙を細い人差し指で拭きながら問いかけてきた。 「いいわ。その玉風とやら、何か得意なことはある?」 「ええっと……獄吏は向いていました。人をいじめるのがとても得意だと思います。あとは、掃除や料理などは一通り。私は家事が得意でないので、一緒に住んでいた頃はほぼ家事を玉風姉様に丸投げしていました」 「なるほどねえ。なら、料理人をお任せしようかしら。かなり厳しい修行をさせられると思うけど、地獄にいたくらいなら精神は強いでしょう」  即座に適材を適所に置こうとしている。やはり人を使うことはうまそうだ。 「それから~……そうねえ。貴女、閻魔王の区域に偵察に行く気はない?」  ばっと勢いよく顔を上げる。行ってもいいと言うのか、閻魔王の元に。 「天愛、本気? こんな小娘一人で他の区域に行っても警備に追い返されて終わりだと思うけど」 「大丈夫です。行けます。行かせてください」  飛龍の反対の声を食い気味に押し切る。  邪魔をするなという圧を込めた低い声を出してやった。
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