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「確かに、一人で他区域に送るわけにはいかないわね。貴方も付いていってはどう? 飛龍」
「は?」
「ちょうどこの前、閻魔王が遊びに来たと言っていたでしょう。今度はこちらが遊びに伺ってもよいのではなくて?」
「俺が? この子のためにわざわざ?」
「この子の恋路を応援するため、というのもあるけれど……それよりも、わたくしのことを悪く言っていたという閻魔王の皇后について知りたいの。手伝ってくれるわよね? 飛龍」
天愛皇后が秋波を送ると、飛龍はあっさりと「……君が言うなら」と了承した。
この男、妻を前にすると随分態度が違うな、と思ってじろじろ見てしまった。
「何だよ、何か文句あんの?」
凄まれたので「いえ別に」と短く返す。
そして、天愛皇后に要件を聞いた。
「偵察というのは、具体的にどういったことを探ればよろしいのでしょうか?」
「閻魔王の皇后が元宵節でどのような衣装を身に付けるのか探ってほしいわ」
確かに、他区域の皇后よりも珍しく美しい衣装で祭りに出れば、天愛皇后をただの奴隷上がりの妻と思っていた人々の意識も少しは変わるかもしれない。
妃を着飾らせるのは侍女の仕事だ。皇后が格上であるということは、その皇后に仕える侍女たちも他の侍女たちより上であることと同義である。侍女たちの自尊心を戻すための良い機会だ。
「できる?」
「できるかできないかではありません。閻魔王様に会えるのなら、私は何でもいたします」
天愛皇后への奉仕精神は微塵もないが、閻魔王の区域に行く口実を得られたのだから精一杯活用させていただこうと思う。
ふ、と天愛皇后は含み笑いをした。
「いいわね。そんなに愛されていて羨ましいわ。閻魔王様」
「俺の愛じゃ足りないっていうの? 天愛」
「わたくしは元来女の子の方が好きだもの」
天愛皇后は、飛龍の問いにそう答え、紅花の顎に手を添えて顔を上げさせる。
美しい顔が急に近くに来て驚いた。
「妾にしたいくらいだわ、この子」
――この区域、王が男色家なだけでなく、皇后も女色を好むらしい。
ひ、と思わず短い悲鳴が漏れる。紅花にそちらの趣味はないからだ。
「ふふ、怯えちゃってますます可愛い。機会があれば一晩中愛でてあげたい。こう見えて上手なのよ? わたくし」
何が。
紅花の反応を見て目を細める天愛皇后も怖いが、その後ろでめらめらと嫉妬の炎を燃やしている飛龍も怖い。
紅花は天愛皇后からさり気なく距離を取りながら話題を変える。
「と、とにかく。閻魔王様の皇后について探ってほしいというご命令、謹んでお受けします。……でも、私のような下っ端の鬼殺しに頼んでよかったのですか?」
天愛皇后なら他にも優れた間諜を持つはずだ。わざわざ間者を専門としない元獄吏の鬼殺しなどに頼まずとももっと確実な方法がある。
「あら、野暮なこと聞くのね。貴女で遊びたいの。貴女のことが気に入ったのよ、紅花」
――この皇后に気に入られてよかったのだろうか、と一抹の不安を感じた。
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