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その日から、庭師との特別な勉強会が行われることになった。
風の吹き抜けるあまりしっかりしていない勉強小屋で、基本的な知識やいかに形作るのが美とされているのかなどを学んだ。
紅花は冥府の字が読めないため、書物は通さず言葉で教えてもらった。
「嬢ちゃん、何してんだ?」
昼過ぎ、ちょうど近くで幽鬼を殺していたらしい魑魅斬が訝しげな顔で窓から覗き込んできた。鬼殺しとしての仕事をしばらく休んでいる紅花は久々に鬼の死体の臭いを嗅ぎ、やはり臭いなと思った。庭師がうっと鼻を摘んで魑魅斬から距離を取る。
「おー、悪い悪い。今日はそんなに匂わねえと思ったんだけどな」
「魑魅斬の嗅覚が馬鹿になってるだけでしょ……」
「言うなあ、嬢ちゃん」
ぎゃはは、と魑魅斬が大声で笑った。
「折角休みをやってるのに何してんだよ。閻魔王の区域に行かなくていいのか?」
「閻魔王の区域に向かうために勉強してるのよ」
「はあ?」
意味が分からん、という顔をされたため、仕方なく経緯を説明する。すると魑魅斬はぶはっとまた噴き出した。
「なるほどなぁ、嬢ちゃんも苦労してんだなぁ」
「折角の機会だもの、逃がすわけにはいかない」
「勉強熱心なのはいいが、晩飯には遅れんなよ」
鬼殺しの仕事を休んでいる間も、寝泊まりしているのは冷宮だ。魑魅斬は毎日紅花の分まで夕食を作ってくれている。時間が惜しい今、凄く助かっていた。
「……いつもありがとう」
「おうよ。にしても、玉風嬢ちゃんは元気なのかねえ」
「何よ、最初は玉風姉様を殺そうとしていたくせに」
「俺は後宮の人間にしては情に厚いからな。少し世話すりゃ情が移っちまうのさ」
魑魅斬は何だかんだ面倒見が良い。玉風は紅花にとって姉のような存在だが、魑魅斬も兄のような存在になりつつある。
「玉風姉様は料理人として働かせてもらっているわ。色々落ち着いたら様子を見に行きたいわね」
「だよなあ。また一緒にお邪魔しようぜ」
天愛皇后の料理を作る人々が、紅花たちのような鬼殺しを料理場に入れてくれるとは思えない。どうにか天愛皇后に頼み込んでみようと思った。
「んじゃ、俺は仕事に戻るわ」
鬼の死体の入った箱を持ち、立ち去っていく魑魅斬。魑魅斬と距離が開いたことで、気持ち悪そうな顔をしていた庭師がようやく立ち上がった。勉強の再開だ。
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