第三幕

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 ■  宮殿に到着すると、前回とは異なる部屋に案内された。書物庫のような場所だ。古い紙の匂いの中に、香ばしい茶の匂いが混ざる。  紅花は目の前の長子皇后に疑問を投げかけた。 「明日は元宵節なのに、こんなに悠長にしていていいの? 舞う予定なのでしょう」 「舞いは昔から得意なんだ。練習などせずとも問題はない」  湯気の出る茶を飲む長子皇后の姿は優雅だった。何をしていても絵になる女性だと改めて思う。 「他の妃たちは必死なのに、そんなこと言ってたら恨みを買うわよ」 「恨まれるのが怖かったら皇后の地位は務まらん」  ふ、と長子皇后が馬鹿にしたように笑う。  確かに皇后という立場は、悪いことを何もしていなくても嫉妬される対象だ。幼い頃から次期皇后候補の主力だった長子皇后にとっては、恨みなど慣れたものだろう。  ふと、長子皇后が茶器を置いて紅花に話しかける。 「紅花」 「……何?」 「そこの棚にある書を取ってくれぬか。今日の服は重くてかなわん」 「ここ?」  長子皇后が指を指して示したのは、かなり高い位置にある書物だ。紅花は身長が足りなかったため、台を用いて何とか手を伸ばす。  その時――書物を引く時に引っかかったのか、上からぐらりと何かが落ちてきた。  大きな音を立てて文の箱が落ちた。床にばら撒かれたのは大量の文だった。何と書いてあるのか紅花には分からない。  ただ、名前だけは読めた――前の閻魔王、帝哀の父の名が書かれている。 「見られてしまったな」  手紙を拾い上げて元の場所に直していると、後ろから長子皇后が歩いてきた。 「構わない。言い訳はせん」 「……え?」 「帝哀に見せるなり、天愛に見せるなり、好きにしろ」 「…………」 「何だその顔は? 驚きすぎて声も出ないか」 「いや……あの、何を言っているの?」 「は?」 「どうしてこの手紙を帝哀様に見せる必要があるの?」 「何をとぼけている。見れば分かるだろう」 「私、冥府の文字は読めないのよね」  長子皇后は口をぽかんと開けたまま固まった。 「な……そんな馬鹿な……天愛が送り付けてきた間諜が、そんな無能なわけないだろう!」 「無能って何よ。私、ただの元獄吏だもの。基本的に冥府では肉体労働しかやったことないの。……っていうか間諜だと気付いてたわけ?」  衝撃を受けたように震えた長子皇后は、叫ぶように言った。 「――その手紙は! 我と生前の前閻魔王が交わしていた恋文だ!」
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