第三幕

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 冷宮の窓から、静かな空に一発の大きな花火が打ち上がるのが見えた。それを合図として一斉に音楽が奏でられる。街路には美しいランタンが飾られ、明かりが後宮全体を照らし出す。提灯にも様々な形や色があり、花や動物、神話生物など、さまざまな模様が描かれている。現世の職人から特別に取り寄せたものだろう。  料理人である玉風も今日は休日らしく、華やかな衣装を着ていた。 「いいじゃねえか、可愛いよ」  魑魅斬が褒めると、玉風は顔を真っ赤にして無言で走り去ってしまった。 「……俺、何かまずいこと言ったか? 褒めたつもりだったんだが。女の子って分かんねぇなぁ」 「……貴方、意外と鈍いのね」  今のは明らかに好きな人に急に見た目を褒められて照れた時の顔だったのに、魑魅斬は全く気付いていなそうだ。この様子では、二人の進展はしばらく見込めないかもしれない。 「紅花嬢ちゃんもお洒落すればいいのに、何だって男装なんだ?」 「見回りするなら、こういう格好の方が動きやすいでしょう?」  十王のうちの二人と祭りを回るなんて言っても信じてもらえなそうなので、適当に誤魔化した。魑魅斬は「ふーん?」と不思議そうに首を傾げている。  帝哀と一緒に祭りに行けるのは楽しみだが、それ以上に緊張する予定もある。――長子皇后との作戦の件。正直、一人でなし得るだろうかと不安だ。  昨日はあれから十区域全てを駆け回り、花々から理性のありそうな幽鬼や狂鬼の目撃情報を募った。そこから鬼たちと接触し交渉を図ったが、言葉で場所や時間を伝えて理解できる者は少なく、途中で意識が途切れたように襲ってくる鬼もいた。おかげで体は傷だらけだ。寝不足でもある。  紅花はちらりと魑魅斬を見上げた。自分よりも鬼殺しとして歴が長く、幽鬼や狂鬼の扱いに長けた魑魅斬に手伝ってもらえば、成功率は上がるかもしれない。だが――今回ばかりは、魑魅斬を巻き込むわけにはいかない。下手をすれば共に反逆罪となるかもしれないのだから。 「じゃあ、行ってくるわね」  いつもの桃氏剣を持って冷宮を出た。  舞いの時間は今日の夜だ。それまではまだ、ゆっくりしていられる。
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