第三幕

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 広場では龍や獅子の被り物を被った鬼たちが舞いを披露している。  元宵節の名物である湯圓(タンユエン)と呼ばれる甘い団子を食べている人々も多い。湯圓は円満や団結を象徴し、冥府を運営する十王たちの繁栄と幸福を祈る意味が込められているらしい。 「あ、やっと来たぁ」  待ち合わせた御花園に小走りで向かうと、既に飛龍と帝哀が揃っていた。二人とも高身長なので、並ぶとまるで二つの塔のようだ。 「変装がうまいな」  帝哀が感心したようにじろじろ見てきた。  髪を結って被り物をし男の衣服を着ている紅花は、遠くから見ればただの痩せ細った少年だろう。魑魅斬に借りた服なので少しぶかぶかだが、これなら変に王との関係性を怪しまれることもない。  心が踊る。祭りなどに参加したのは初めてであるし、その上、隣に好きな人がいる。これ程幸せなことがあっていいのだろうか。 『くすくすクス』 『あなた今日 本当ニやるの?』  御花園の花たちが紅花に語りかけてきた。折角機嫌良くしているのに、嫌なことを思い出させないでほしい。 『数少ないニンゲンの話し相手 失うのは哀しいワ』  彼女たちは紅花が捕まると思っているのだろう。 『可哀想だから手助けしてアゲル』 『ウフフ、ワタシ達、優しい』 「……貴女たちにどう手伝えるというのよ」 『――理性を失っている鬼たちは花の蜜の匂いニ反応する』  どうせからかっているだけだろうと思い、帝哀たちと立ち去ろうとしていた紅花は、その言葉にぴたりと動きを止めて振り返った。 「蜜の匂い?」 『あなたも薄々勘付いていたんジャナイ? 幽鬼や狂鬼は、花のある場所やその近くによく現れるッテ。花の蜜の香りハ、理性のない鬼を惹きつけるのヨ』 「…………」  確かに、花たちはいつも、聞けば妙に幽鬼の居場所に詳しかった。それは、必ず幽鬼が花々の元に来るからだったのかもしれない。 『花々の連絡網を駆使すれば、貴女の手助けがデキる』  衝撃を受ける紅花の隣で、飛龍がつまらなそうに言う。 「ちょっとぉ、またお花とお話してんの? 早く行こーよ。俺には聞こえねぇからつまんなーい」  急かさないでほしいところだが、帝哀も待っているので慌てて花から帝哀たちの方に意識を向ける。 「後で、力を借りさせて」  そんな言葉を花たちに残して。
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