第三幕

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 ■  道の両脇には、焼き小籠包、貴妃鶏翅、揚州炒飯、東坡肉など、数々の食べ物の店が立ち並んでいる。普段は仕事ばかりであろう鬼たちもわいわいと群がって店を回っており、どこもいつも以上に活気づいていた。  紅花たちもそのうちの一つの店により、椅子に座って並ぶ。小籠包に噛みつくと、熱い汁が溢れ出てきて衣服に垂れる。紅花のその様子を見ていた帝哀が笑った。 「食べるのが下手だな」 「すみません……」 「ゆっくりでいい。待っているから」  好きな人にそんなにじっと見られていたら緊張して味がしない。何とか食事に集中しようとする紅花の横から、飛龍が小籠包を一つ摘み食いした。 「ちょっと、それ、私のなのだけど」 「一個くらいいじゃん。食い意地張ってるなあ。この後も食べ物の店はいっぱいあるんだから、全部食べてたら太っちゃうよ? 帝哀、太ってる子は嫌いかも」 「な……!」  それもそうかもしれない。富の象徴としてふくよかな女性を好む王も多いようだが、少なくとも閻魔王の区域に太った妃はいない。  卑しいと思われたかもしれないと不安になって帝哀の方を見ると、帝哀は存外優しい声で言った。 「お前がいくら食べたところで、お前のことを嫌いになったりはしない」 「…………」 「…………」  その甘い言葉に驚いたのは紅花だけでなく飛龍も同じなようで、二人して無言になってしまった。 「それより、お前は本当に、飛龍に対してはくだけているな」 「飛龍様に対しては敬意を持っていないので……」 「おい」  さらっと失礼なことを言ってしまい、横から飛龍に軽く叩かれた。 「俺に対しても敬意を持たなくていい。もっと気楽に構えろ」 「そ、それは無理です! だって私、帝哀様のことはこの世で一番尊い存在だと思ってるのですよ!?」 「無理? その〝この世で一番尊い〟俺が命じているのにか?」 「う、うう……」 「まずは俺のことを帝哀と呼び捨てにしてみろ」 「………ティ……帝哀…………」  ぼそっと物凄く小さい声で呼ぶと、帝哀は満足げに笑う。 「それでいい」  十王の一人、閻魔王を呼び捨てにするなど普通なら考えられないことだ。嬉しいような、罪悪感がするような。 「ちょっとお、俺の前でいちゃいちゃすんのやめてくんなーい?」  飛龍が文句を言いながら寄りかかってくる。ずしりと重みが伸しかかって倒れそうになった。 「近くないか? 離れろ」 「なぁ~んで帝哀の言うこと聞かなきゃなんねーの?」  小籠包が食べづらいので飛龍を睨み付けたその時、向こうから歓声が上がった。 「ねえ、あれって宋帝王様の区域の皇后様じゃない?」 「まあ……。お美しいわね」  ――皆の視線の先にいるのは、息を呑む程美しい衣装を身に纏った天愛皇后だ。薄桃色の細い髪が風に揺れる様は酷く上品である。頬の烟脂も、眉間の花模様も、気合が入っていることが分かる質だ。白虎の刺繍と、その刺繍に負けないくらい、虎のような威圧感のある金色の瞳。絶世の美女なのは間違いないが、それ以上に、喰われてしまいそうな威厳がある。  あの姿を見て馬鹿にする者はいないだろう。
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