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「元奴隷と聞いていたけれど、あれだけの美貌があるなら宋帝王様が気に入るのも無理ないわ」
「あら、貴女見たことなかったの? 私は以前の元宵節で見た時から知ってたわよ。とびきりお綺麗な方だってね」
「聞いたところによると、宋帝王様のご寵愛も深いのだとか」
侍女たちは飛龍の存在に気付いていないのか、きゃっきゃと楽しげに話し合っている。あの服装はこちらの区域でなく、他区域の侍女だろう。
飛龍はふんっと得意げに口角を上げた。
「俺の妻なんだから当然だろ」
自慢の正妻を人々に褒めそやされて嬉しそうだ。いつになく上機嫌である。
しかし、侍女たちのそんな口ぶりをよく思わない者もいたようで。
「美しいから何よ。品性は血筋から来るものよ。元奴隷の皇后なんて、宋帝王様の格を下げているわ」
彼女たちに横から口出ししたのは、服装からして閻魔王の区域の侍女だ。長子皇后の宮殿で見たことのある顔もある。
「それに比べて、私達の区域の皇后様は、生まれた時から別格なの。王の皇后となるために生まれてきたようなお人だもの」
「元奴隷がいくら長子皇后様に張り合うような衣装を着たところで、みっともないだけだわ」
彼女たちは、やはり天愛皇后が白虎の刺繍をしているのが気に食わないようだ。
「は、はあ……。申し訳ありません」
他区域の侍女は目を見合わせ、面倒事になるのを避けるためか身を小さくして逃げるように立ち去っていく。
――そこへ、閻魔王の区域の侍女たちが歩いてきた。それも、天愛皇后のお付きの者たちだ。
「聞き捨てなりませんわね。今のお言葉、撤回してくださるかしら」
天愛皇后の侍女たちの眼差しは冷ややかで、静かに怒っているのが伝わってきた。
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