第三幕

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「あらあらあらぁ、奴隷の下に付いている、可哀想な方々じゃない」  長子皇后の侍女たちは、口元を隠しながら一斉に笑い合う。それは明らかに嘲笑だった。 「天愛皇后様はもう奴隷ではないわ。生まれがどうであれ、あの方の素晴らしさが分からないなんて、人を見る目がないこと」 「……こちらが節穴だと言いたいの?」  長子皇后の侍女の一人が、天愛皇后の侍女の言葉にぴくりと眉を寄せた。その顔からは一瞬にして笑みが剥がれ落ちる。 「私達は、閻魔王様の皇后様であらせられる、長子様直属の侍女よ? 奴隷の下にいる分際で、私達にそんな口を叩いていいと思ってるのかしら」 「私達だって、宋帝王様の皇后様の侍女よ!」 「はぁ? 奴隷を皇后の座に置いているような品格のない区域の王など取るに足りない。その区域で働いている貴女たちもその程度の存在ということよ」 「自尊感情があるのはいいことね! けれど、自分のところの皇后様が好きだからって、こちらの区域を馬鹿にするような物言いは浅慮なのではなくって? 育ちのいい長子皇后様と違って、貴女たちはろくな教育も受けていないようね?」 「あら~~~? そちらは私達のことを何も知らないようねぇ? 長子皇后様は血筋からして完璧だから、その辺の雑草を傍に置くことなんてしないわ。かくいう私は後宮で一番才のある侍女とされていて――」  言い争いは苛烈なものになっていく。双方一歩も譲らず、その顔はどちらもまるで鬼のように恐ろしい。  きっと以前であれば、天愛皇后の侍女がこのように反論することもなかったはずだ。彼女たちが心から天愛皇后を誇りに思うようになったからできている。  以前馬鹿にされた時は、心のどこかでその通りだと思っていたから、言い返せなかったのだ。良い変化のように思われた。 「それだけお偉い長子皇后様は、お体を愛でることはできるのかしら?」 「……は? 体?」 「天愛様は夜の技も格別よ。さすがはあのほぼ男にしか興味のない宋帝王様を物にしただけあるわ」 「な、な、何であんた達がそんなこと知ってんのよ。まるで経験したことあるみたいな……」 「天愛様はお優しいの。とっても……。だから、私達のような下の者のことも可愛がってくださるのよ……」 「は、はぁぁ? 急に何の話よ、何の!」  ぽうっと頬を染めながら語る天愛皇后の侍女たちの艶めかしい声を聞いて、長子皇后の侍女たちの顔が耳まで真っ赤に染まる。いや本当に何の話をしているのだろう。
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