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「王のお通いがない長子皇后様には、そのような技術もないのでは?」
それは最大限の侮辱だった。夫である閻魔王が一度も長子皇后の宮殿を訪れていないのは事実である。逆に言えば、それだけが長子皇后の弱点と言えるだろう。痛いところを突かれた長子皇后の侍女たちは沸騰するのではないかと心配になる程顔を赤くして怒り狂い始めた。
「あんた達、なんてこと言うの!? 今は確かにお通いがないかもしれないけれど、それは閻魔王様がお忙しいからで……ッ」
「宋帝王様も閻魔王様と同程度に裁判があるけれど、合間を縫って長子皇后様の元に通っているわ!」
「だから何よ! 長子皇后様は、夜の技術なんて淫らな取り柄しかないような下品な人とは違うわ!」
そこではっとした。いつの間にか、紅花の隣から飛龍がいなくなっている。
視線を横に移動させると、長子皇后の侍女の真後ろに彼がいた。
「――虎の威を借る狐って、君たちみたいなのを言うんだね」
振り返った侍女たちは、宋帝王である飛龍の姿を見て頭から水を浴びたようにぞっとした顔をして硬直する。
「…………」
「何黙ってるんだよ。ああ、頭悪いから分かんない? 権勢を持つ者に頼って威張る小者って意味なんだけど」
「……あっ……あ、ああ、う」
恐ろしすぎて言葉にならないのか、口をぱくぱくさせながら後退る様子が見えた。
「天愛を侮辱するっていうのは、すなわち俺を侮辱するってことだけど――それが何を意味するか、分からない程愚かじゃないよね? 〝長子皇后様の侍女〟ともあろう女が」
「……っ……ぅ」
「他区域の王や皇后になら何を言ってもいいと思ったかな? 俺らからすれば、道端に生えている雑草よりも価値のない君たちが」
飛龍に冷たい目で見下ろされた侍女たちの足ががくがくと震えている。
――あれは、この後どうなるか分からないな。紅花のように鬼殺しにされてしまうかもしれない。最終的には長子皇后が間に入って守ってくれるだろうが、それ程思い入れのない侍女ならあっさり飛龍に渡す可能性もある。
怖い怖い……と想像しながら、天愛皇后に見入っているうちに冷めてしまった小籠包を咥える。すると、隣の帝哀が話しかけてきた。
「昨夜は何をしていた?」
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