第三幕

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 ここで普通に断ったところで受け入れてもらえない気がした。であれば、痛いところを突くしかない。 「――――なら、私のことを貴方の区域の皇后にしてくれる?」  目を見開いた飛龍の瞳が僅かに揺れた。  答えは分かっている。こんな意地悪な質問をしたのは、わざとだ。 「私、欲張りだから、妾じゃ嫌なの」 「…………」 「できないでしょう。貴方には絶対に。貴方の〝一番〟は今も昔も天愛皇后様ただ一人なんだから」  正妻の座も、高貴妃の座も貴妃の座も絶対に揺らがない。今いる妻たちを何より大切にしている飛龍が、その妻たちに悲しい思いをさせることなど絶対にない。  言い返すことのできなくなったらしい飛龍を、ふっと鼻で笑ってやる。 「あれもこれも欲しいなんて傲慢ね。悪いけど私は、妾なんて立場に甘んじるような安い女じゃない」  だから最初から、紅花が奪おうとしているのは帝哀の皇后の称号なのだ。妥協をするつもりはない。  不意に、飛龍が大きな声を上げて笑った。 「ふっ、は、ははははははは! そう来たか! いいねえ、確かに、そう言われたら俺は君をこれ以上求めることはできない。考えたね」 「貴方の天愛皇后様溺愛っぷりはよく知っているからね」 「っは、やっぱ君はいい女だよ。ますます欲しくなっちゃった」 「欲しくなられても困るのだけど……」  一通り笑った後、薬を持った帝哀がこちらに戻ってくる折に、飛龍が言った。 「俺の妻たちを害するような事柄でなければ賛成してあげるよ」 「え?」 「十王会議、やるんだろ。過半数どころか全会一致させてあげる」 「……随分あっさり手伝ってくれるのね。ありがとう」  後で代償を要求されないが少し怖いが、礼を返す。 「惚れた女には優しくする主義なんでね」  くっくっと低く笑いながら冗談か本気か分からないようなことを口にする飛龍を横目に、帝哀が持ってきてくれた薬草を潰して呑んだ。
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