第三幕

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 ■  徐々に舞いが行われる広場に人々が集まっていく。人々の流れに逆らって、反対方向に走っていくのは紅花ただ一人のみだ。  やることは、花たちと打ち合わせをすることと、昨夜位置を確認した幽鬼たちに会いに行って舞いが行われている広場まで誘導すること。広範囲の移動をしなければならないので、鬼の協力が必要だ。この時のため、あらかじめ脅して言うことを聞かせた運び鬼がいる。  しかし――約束の場所に向かっても、その運び鬼はいなかった。 「あの野郎……逃げやがったわね…………」  やはり恐怖で他者を従わせるのには限界があるということだろう。いくら脅されたからといって、十王への反逆に誘われたら逃げるのも無理はない。心が読める紅花にちょっとした悪事をばらされるのと、反逆罪に問われるのとでは、後者の方がかなり危険性が高い。少し考えれば分かることだ。  早速行き詰まってしまった。紅花の足だけで十区域を移動するのは不可能である。 (どうしよう……帝哀にお願いする……? いやでも、既に特別席に向かわれたようだし、話しかけるのは難しいわ。新しい鬼をこれから捕まえるにしても全員広場の方に行っちゃってるし、人目につく場所で交渉するのは避けたい)  だらだらと汗が流れる。その時、後ろから聞いたことのある誰かの声がした。 「困ってんのか? 俺を使え!」  ――あの時助けた掃除鬼だ。 「な……何でこんなところに。皆広場に向かったはずでしょう?」 「逆流していくお前が見えたからよ! また天愛皇后様にこき使われてんじゃねえかって……ったく、元宵節の日まで働かせるなんて天愛皇后様も意地悪だぜ」 「……今回は別件よ。でも、助かったわ」  普段から運びをしている鬼と比べれば速力は落ちるだろうが、掃除鬼も立派な鬼だ。人より何十倍も体力があり、素早く動ける。 (反逆の準備だってことは言わないでおこう……) 「幽鬼を集めたいの。まずは、この区域の北端に向かってくれる? 御花園のすぐ隣なんだけど……」  時間もないので前置きは抜きにして用件だけ伝えていると、また別の声がした。 「おーい、そこでこそこそ何してんだ?」  ぎくりとして動きを止める。振り返ると、そこにいたのは魑魅斬だ。  こっそり実行に移したかったのに、どうしてこうも邪魔が入るのか。 「……ナ、ナニモシテナイワヨ」 「嬢ちゃんが何か隠してんのはお見通しだ。どうせ、何かに巻き込まれてんだろ? 元宵節っていう喜ばしい宴の真っ最中に、後輩だけ働かせるなんてあっちゃならねえことだからな。手伝ってやる」  得意げに先輩面してくる魑魅斬。何だかんだで世話焼きな彼は、紅花の様子が気になって後をつけてきていたらしい。  魑魅斬の耳に口を近付け、こそこそと長子皇后との間で交わした約束について伝える。彼は案の定「はぁぁああ~~~!?」と大きな声を出してひっくり返りそうなくらい仰け反った。
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