一幕

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 魑魅斬はふん、と鼻を鳴らし、一枚の地図を紅花に投げてくる。  後宮内の地図のようだった。受け取ってから真っ先に探したのは、閻魔王の養心殿の位置だ。残念ながら閻魔王の区域はこの後宮の最北であり、南に位置する宋帝王の区域とは真逆の方向にある。 (同じ後宮内とはいえ、徒歩で行こうとすれば物凄い距離ね……)  少なくとも、夜に冷宮を抜け出してこっそり迎えるような距離ではない。 (空を飛べる鬼に協力してもらって運んでもらおうかしら)  悪巧みを考えていると、魑魅斬が宋帝王の区域内の御花園と書かれた庭園らしき場所を指差す。 「ここによく幽鬼が出るという声が上がっている。下女たちが怖がって仕事に差し支えるようだから、さっさと駆除してこい」 「……分かったわ」 「普通の武器で鬼は殺せねぇ。これを持ってけ」  魑魅斬が持っていた桃氏剣を渡してくる。想像以上の重さだ。 「嬢ちゃん、これまでは鬼と仕事してきたんだろ。だが、幽鬼や狂鬼は普通の鬼とは違う。意思を持たない化け物だ。躊躇いなく殺せ。できるか?」 「選択できる立場じゃないし、言われなくてもやるわよ」 「いい子だ」  紅花の強気な返事が気に入ったのか、魑魅斬はくっくっと低く笑うのだった。
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