第三幕

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(紅花、そなたのせいだ)  一心不乱に走り、誰よりも早く帝哀をその目で見つけ駆け寄って、襲い来る狂鬼たちに刀を振るうその姿は、泥臭くてがむしゃらで美しい。 (我と同じ、恋をする人間の力強い目。どんな手を使っても、手に入れたい者の目。我はそなたに敬意を表することにする)  魑魅斬や十区域の鬼殺し、紅花や王専属の護衛のおかげで、一時間も立てば争いは集結した。  つい先程まで華やかな舞いが行われていた広場は、地獄絵図と化している。  鬼の死体から発される酷い悪臭が漂い、その匂いにやられた人々の吐瀉物が地面に広がり、逃げ惑う人間同士がぶつかって血も流れている。 「長子皇后様! お戻りください! そんなところにいては危険です!」  護衛の者が叫んでくる。死体の匂いがきつすぎてこちらには近付けないらしい。長子はゆっくりとそちらを振り返り、凛とした声で言い放った。 「――嗚呼、計画は失敗だ」  静かになった広場にその声はよく響き、それを聞いた者たちが目を見開く。 「十王全てを殺す計画が、失敗してしまった」  長子は懐から重たい短刀を取り出し、ゆらりゆらりと帝哀に近付く。観客たちも、長子がまさかこんな重い武器を忍ばせて軽やかに舞っていたとは思わなかっただろう。 「憎き帝哀だけでも、殺すことにしよう」  数千年単位で会っていなかった帝哀が目の前にいる。彼は一切動じていない。全く動かず、長子のことを紅の目で見上げている。 (……腹立たしい)  〝彼〟と同じ目の色だ。  大きく腕を上げ、刀を振り下ろす。  きんっと音を立てて、その刃は他の刃とぶつかった。  長子の刃を受け止めたのは紅花だ。この計画を共に立てた紅花と視線が交わる。長子は薄く笑った。
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