第三幕

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「これから会議が行われるのなら、これについても議題にしてくれぬか? そちらも何度も会議を開くのは面倒だろう。十王様よ」  遺言状に従う義務はない。しかし、王の遺言状に書かれていた事柄については、十王全員が揃って多数決を取り、可決するか話し合う必要がある。 (長子皇后様は、本当に私の願いを叶えてくれようとしている)  紅花は驚いた。長子を信じていなかったわけではないが、長子がいくら頑張ったところで不可能だと予想していたのだ。長子も、紅花に言うことを聞かせるため、一時的にできるという風に振る舞ったのだと思っていた。  長子は帝哀を憎んでいる。それなのに、紅花のために、何兆年も隠していたものを引っ張り出してきたのだ。  ――本当に長子皇后を冥府から追放させていいのだろうかと、今更ながらに迷いが生じた。いや、冥府から追放するのはいい。彼女はその方が幸せだからこの道を選んだのだ。  けれど、彼女が去った後、彼女は反逆者として、最低な皇后として人々に語り継がれていくことになる。ただ一人の男を愛し、その男に会うために計画を立てただけであるのに。  紅花の話で笑ってくれた、あどけない少女のような長子皇后の一面を思い出す。  今更もう引けない。けれど、誤解を解くだけなら――。  一歩前に進もうとした紅花の腕を、帝哀が掴んで引き戻した。  振り返ると、帝哀は険しい表情をしている。 「やめろ」 「でも……」 「お前が下手に出て疑われるのは嫌だ。それに、長子もそんなことは望んでいない」 「…………」 「お前を失いたくないんだ。俺の言うことを聞いてくれ」  冷静に考えれば、「本当に殺すつもりはなかった」「計画に王を殺すことは入っていなかった」と言ったところで、証拠不十分だ。それを事実として受け入れられたとしても、罪が軽くなって冥府追放とまではいかなくなってしまうかもしれない。  ――長子皇后の覚悟を、一時の迷いで蔑ろにしてはいけない。 「……止めてくれて、ありがとうございます。血迷いました」 「俺が欲しいんだろ?」 「! ……は、はい」 「なら、手段を選ぶな。誰を犠牲にしても俺を求めろ」  その真っ直ぐな瞳に、また驚かされた。帝哀を求めることを許された気がして、その言葉が胸にじわりと浸透していく。 「――はい! 大好きです」  紅花が大きく頷いたその時、十王会議のための王たちの収集が始まった。
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