第三幕

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 ■  長子皇后はまるで罪人のように両手を捕縛されて連れて行かれ、王たちはいなくなり、十区域の鬼殺したちは広場に広がる鬼の死体を片付けようと奔走している。 (皆働いてるけど……私はちょっとくらい休んでもいいわよね?)  鬼を連れてくるのにも、鬼を倒すのにも、これまでにない程体力を使った。ここで少しくらい休息を得ても許されると思いたい。  観客席に腰をかけて一息つく。長子皇后が出してくれた茶を呑みたいところだが、きっとあれは、もう二度と呑めないのだろう。 「――今回の件、また貴女が絡んでいるのではなくって?」  ふと、鈴のように耳障りの良い、楽しげな声がした。  顔を上げると、美しい姿をした天愛皇后が立っている。あんなことがあった後だというのに一人だ。一目を盗んでこっそり紅花の元へ来たのだろう。 「さぁ、何のことだかさっぱり」 「あれだけの数の幽鬼や狂鬼を連れて来るだなんて、長子皇后の力でできるとは思えないのだけど? まぁ、貴女が鬼の心を読めることについては知らないふりをしておいてあげるけれど」  紅花のことを見透かすように目を細めた天愛皇后は、くすくすと華やかに笑った。遠くから見てもあれだけ美しかった彼女は、近くに来るとよりその容姿端麗さが際立つ。思わずまじまじと見つめてしまった。 「わたくしに見惚れているの?」 「……はい。今日は一段と……何というか、凄いですね」 「ふふふ。褒めるのが下手ねえ。綺麗だとか言えないの?」 「お綺麗ですよ。少なくとも今日見た皇后様たちの中で、天愛皇后様が一番綺麗でした」  世辞でなく本音だ。他がどう評価するかは知らないが、紅花にとっては、天愛皇后が一番美人だった。  すると、天愛皇后の顔がぱぁっと明るくなり、紅花の肩に手を回したかと思えば、必要以上にくっついてくる。 「やぁーだ! もぉ~そんなこと言ってくれるの? 嬉しいわ。貴女、本当に食ってやろうかしら」 「……勘弁してください……」  あの侍女たちのように骨抜きにされるのは御免だ。  くすくすと機嫌良さそうに笑っていた天愛皇后は、ふと笑うのを止め、ぽつりと呟く。 「長子皇后、幸せそうな顔をしていた。今回は勝つつもりで本気を出したのに――わたくしには、彼女のあの表情の方が美しく見えたわ」 「……そうでしょうか」 「あれが、全てを捨てて自分の道を歩むことを決めた女性の美しさなのでしょうね。……わたくしには、捨てられなかった」  空を見上げながら悲しそうに言う彼女の横顔を見つめる。
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