第三幕

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 ■  元宵節の宴が中止され、人々が店仕舞いをしている横を歩く。提灯も降ろされ、後宮はいつもの光景に戻ろうとしている。非日常感が徐々に薄れていくのを感じながら歩いていると、色とりどりの牡丹の花が咲き誇っている御花園に辿り着いた。 『よかったネ』 『くすくす』  花たちが楽しげに笑っている。 「……ありがとう。手を貸してくれて」  花たちには独自の連絡網があり、それぞれに繋がっているらしい。花同士では、風に乗って声を届けるという。  彼女たちが手を貸してくれなければ、あれだけの数の幽鬼や狂鬼を集めることは難しかっただろう。 『アナタ見ていて 飽きない』 『後宮でのツマラナイ生活 あなたがいると 彩られるノ』 『また 楽しませてネ』  花はお喋りと面白いことが大好きだ。どうやら紅花は、気に入られているらしい。 「努力するわ」  苦笑いして答える。その時、風が吹いた。何となく良い予感がして振り向く。  予想通り帝哀が立っている。  十王会議が終わったら真っ先に来てくれるのではないかと期待していたので、本当にそうなって少し嬉しい。 「……お帰りなさい。帝哀」 「ただいま」  帝哀は紅花の頬に触れた。 「怪我は治ったのか」 「はい。冥府の薬を呑んだらすぐ治りました。掠り傷でしたし」  帝哀を守るために紅花が負った傷を心配してくれているらしい。頬に付いた傷は掠った程度であるし、強いて言うなら少し腕の骨が折れたくらいで、他は大したことはないのだが。 「それより、会議はどうなったのですか?」 「――どちらの議題も、十王の全会一致で可決された。飛龍は本当に口がうまいな。王より詐欺師の方が向いているくらいだ」 「ええ……本当に全会一致だったんですか」  ということは、長子は死刑。帝哀の今後の罰は、廃止されるということだ。 「良かったですね」  心から思う。人に罰を与えた責任として罰を受け、それでぼろぼろになっている帝哀の姿はもう見たくない。 「……いいのか?」 「いいとは?」 「お前は、罰を受けている俺の姿を見て俺に惚れたんだろ。それがなくなったら、俺のことが嫌いになってしまうのではないか?」 「ええ!? そんなわけないじゃないですか! 確かにきっかけはそれでしたけど、私は帝哀の全部が好きです! 一部がなくなったくらいで嫌いになりません」  そう否定した時、ふと不安になることを思い出した。
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