2/9
13人が本棚に入れています
本棚に追加
/401ページ
当時12歳にも満たなかった少年の運命――そして人生が大きく変化し始めたのは、大戦が始まってすぐのことだった。 少年の名前はハン・ジュノン。 これは、彼の所属組織であるCIGIから彼に与えられた名である。 CIGIとは、合衆国大統領直属の監督下にある機関から派生した戦略作戦局で、世界情勢の悪化を機に新たに発足した組織である。 各国から秘密裏に子供を仕入れ、幼い頃からスパイとして育てるスパイ養成所としても機能しており、このジュノンも、スパイとして教育するため大韓帝国から拐われた子供の1人だった。 ある程度訓練を受けた子供たちは上から指定されたグループに分かれて活動することになる。 ジュノンのいたグループにはジュノンの同期であり同い年のエフィジオ・ウ゛ァレンテとルフィーノ・カッペリーニが所属していた。 ジュノンは休憩時間に彼らと外食することが好きで、この日も昼食としてシーフードを食べにサンフランシスコへ出掛けていた。 予約していた会話の漏れない特別席で名物のクラムチャウダーを食べながら、ジュノンは2人に聞く。 「オヴラの試験はどうだったんだ?」 「簡単簡単。かわいこちゃん口説くより造作無い試験だったよお?」 「アタシにかかれば何てことないわ、あんなの」 ルフィーノがイタリィ育ちでないにも関わらずラテンの血を感じさせる少年である一方、エフィジオは女言葉を話すことや女子の集団に混じってトークをすることが好きな少年だ。 あまり似ていない2人だが、彼らには共通してイタリィの秘密警察オヴラへの潜入が命じられており、数年後には必要な時のみ機能するスリーパーとして完全にオヴラの構成員となる予定である。 そうなればもう会うこともないだろう。 ジュノンとこの2人の離別の日は近い。 ジュノンは窓から港の景色を眺めた。 ここからの景色も、たった数年で随分変わってしまった。 数十年前まで常に成長し続ける超大国と言われたこの合衆国も、今では国の各地で財政破綻や治安悪化が次々と起こっている。 更には経済活動としての戦争に片足を踏み入れている状態で、1週間後にはドクイツに最新の兵器を売るという情報もCIGIに入ってきている。 しかしジュノンはこの不穏な事態に対し何の感情も抱いていなかった。 幼い頃からスパイとして教育され、上の命令に従うのみの生活を送ってきたからだ。 意見を持たないことが自然だった。 ジュノンは人ではなく、国の駒だったのだ。
/401ページ

最初のコメントを投稿しよう!