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隊長と話を付けた私は隊長室から出てさっさと家に帰ろうとしたのだが、廊下に見慣れた男がいたため立ち止まる。
「早かったですね。本当に交渉が成立したんですか?」
いつからここで待っていたんだろうか。この男一ノ宮一也は、私の幼馴染、の、護衛。
幼馴染の護衛であって私の護衛ではないけれど、一也とは随分長い付き合いになる。
無造作な黒髪と鋭い目付き、目尻に彫られたタトゥーで誤解されやすいけど、結構優しい人だ。
「千端哀。隊内で使う新しい名前も貰った」
「…では…今後は哀様とお呼びすればいいのでしょうか」
「……」
様付けはやめてって、いつも言ってるのに。
一也は当時差別の対象にされていた家の出で、その頃の癖というか“自分は最も下位の人間である”という意識が抜けないらしく、7歳年下の私にも様付けをしてくる。
護衛対象の泰久相手ならともかく、私は泰久の幼馴染ってだけなのに。
「一也、いい加減にしてよ。私とお前は対等なの!」
「そんなことを言ってくださるのはあなただけですよ」
クスッと微笑む一也は、私の言うことを聞く気がないらしい。
はあ、とわざと大きな溜め息を吐いて一也の隣を通り過ぎたが、一也は私に付いてきた。
「それはそれとして。勝手に話を進めていいんですか?泰久様に怒られちゃいますよ?」
「何、お前も私の入隊に反対なの」
「泰久様に悪いとは思われないんですか」
「私だって、譲れないものはある」
顔だけを一也の方に向けて答えると、一也は複雑そうな顔をしていた。私のことを心配しているのかもしれない。一也はいつも優しい。泰久も一也も、過保護というか心配性というか………。
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