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昼食を終えたジュノンは、いつものように2人と別れて自身の任務へ向かった。 同じチームとはいえ、ジュノンとルフィーノ、エフィジオでは得意分野が違う。 イタリィ人の2人が他組織への潜入を得意とする一方、ジュノンは合衆国に潜む他国からのスパイを殺害することを得意としていた。 ジュノンのスパイを見破る目、証拠を掴む能力は上層部からも買われており、陰では“スパイ殺しのジュノン”等と呼ばれている程だ。 この日ジュノンに課せられた任務は、スパイ疑いの人間の追跡。 ターゲットが現れるであろうラスベガスへ行くため非行タクシーを拾おうとしていた時、ジュノンはふと霧の向こうに見覚えのある人影を見た気がした。 見覚えがあると言っても直接ではなく、CIGIの本部で渡された資料に付いていた写真で見たのである。 (……何故ここに?) 霧が濃いとはいえ見間違うはずがない。 今頃ラスベガスにいるはずのターゲットだ。 ほぼ反射的に、ジュノンは走り出していた。 ――しかし角を曲がった時、ターゲットは消えていた。 代わりにいたのは、待ち伏せていたらしい1人の若い女。 嵌められたと瞬時に気付いたジュノンは引き返そうとするが、それよりも先に女の手がジュノンの腕を掴んだ。振りほどけない強い力だった。 「騙すような真似してごめんね?でもあたし、どうしても坊やとお話がしたかったの」 ジュノンは念動力で周りにあった物を女にぶつけようと試みるが、当たらない。軌道をズラされている。 (どこの組織の人間だ?ターゲットとの関係は?危ない、危険だ、仲間に知らせて救援を、) 服に付いている緊急呼び出し用のボタンを押そうとしたが、その手も軽く押さえ付けられた。 「ひっどーい。そんな警戒しなくていいじゃない。あたしはただ君と仲良くしたいだけよ、ジュノン君」 「何で僕の名前を知ってる?」 「おっ喋った」 ケラケラ笑った女は、質問に答えずジュノンから手を離す。 しかしジュノンは動けなかった。 (多重能力者か……?) 先程女がターゲットの姿に見えたのは錯覚能力、あるいは変装能力だろう。 そして今ジュノンが身動き取れないのは別の能力で動きを封じられているからだ。 Cランク以上の人間は通常1つの能力しか持たない。 そうなると女はD、あるいはEランクということになるのだが……ジュノンにはとてもそうは思えなかった。 「報告したくって来たの。君のターゲット、あたしがもう殺しちゃったっていうね。死体はラスベガスの倉庫に置いてあるわ。回収宜しくね?」 女がそう言うと同時にジュノンのポケットの中の端末が震え、それが合図かのようにジュノンは動けるようになった。 おそるおそる端末を開くと、ターゲットの死体の写真と倉庫の位置情報が送られてきている。 「……何が目的だ」 「君と仲良くなりたいのよ。ほら、あたし可哀想な子供は放っておけないタチだから?」 (……適当なこと言いやがって) 「別に不幸な目には遭ってない。あんたに可哀想と言われる筋合いはない」 「あらそーお?まぁ、今は分かんないわよね~」 クスクス笑いながら踵を返した女は、 「あたしの名前優香だから。今後は会うことも多くなるだろうし宜しくね、ジュノン君」 自身のことを優香と名乗り、軽やかな足取りで霧の中へと去っていく。 ジュノンは逃がすまいと後ろから攻撃を仕掛けたが、1度瞬きする間に優香は見えなくなっていた。 見逃したと焦って走るが、どこにもいない。 (消えた……?一体いくつ能力を持ってるんだ) ジュノンは心底戸惑ったが、今は死体の回収が優先だと考え、ラスベガスへ直行した。 そしてそこで、自分の殺し方と少しも違わない方法で殺されたであろう死体を見つけるのである。
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