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【零】
有栖川 雪光。
この学園の不動の生徒会長にして、トップオブα(笑)と謳われる男。
それがまさか――
「まさかあの会長様が、本当はΩだなんてね」
俺がほくそ笑みながらその首筋に鼻を寄せても、有栖川は言い返してはこなかった。もう言い逃れは不可能と悟ったのだろう。
正式な書類等をどう偽装しているのかは知らないが、有栖川は実際にはΩであるにも関わらず、αであると性別を詐称していたのだ。教師も含めて学園中がそれを信じ切っていた。彼の容姿や能力や態度を見ていれば、疑いなど抱きようもない。俺だって今の今まで騙されきっていた。
「確かにちょっと、いい匂いするねー」
有栖川からは、涼やかな森みたいな香りがした。その緑の奥から風に乗って、花の柔らかな甘い匂いが仄かに漂ってくる、そんな香りだ。つい、仄かな甘さを追いかけるように、何度も深く息を吸い込んだ。
Ωの発する匂いそのものは、α以外の人間でも多少は感じ取ることが出来る。ただしそれはβやΩにとっては「ただのいい匂い」以上でも以下でもない。いちいち花の匂いや香水の匂いに欲情しないのと同じこと。Ωの匂いに本能を刺激されるのは、あくまでαという性のみだ。
それなのに。Ωであるこの俺が、同じΩである有栖川に対して痛いほど勃起しているのは、Ωだとかフェロモンだとか関係なく。
シンプルに、この状況と有栖川の反応に興奮しているだけだった。
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