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俺は今、有栖川と共に自宅に居る。
両親は仕事で夜中まで帰ってこない。学園を出た後、ヒートの状態で歩き回ったり公共交通機関に乗ったりするわけにもいかず、やむなく有栖川のばあちゃんに車で迎えに来てもらった。
ばあちゃんはシャキシャキと運転していて、「免許の返納前でよかったわ」なんて笑っていた。そして俺を自宅まで送り届けると、有栖川を一緒に降ろして一人で帰っていった。
ばあちゃんも俺がヒートを起こしていることには気付いていただろうが、有栖川が付き添うことに関して何も言わなかった。Ω同士だから、介抱でもするものと解釈してくれたのかもしれない。
実際のところは――いや、ある意味これもΩにとっては“介抱”か。俺たちはバスタオルを何枚も敷いたベッドの上で縺れ合っていた。
「ありすがわ、そういえば球技大会は?」
俺ははたとそのことに思い至って、真上にある顔を見上げる。
「球技大会? そんなのどうだっていいだろ」
「どうだってよくないだろ、決勝戦……」
「他のクラスメイトが代わりに出てるはずだから問題ない」
聞けば栖川は、俺が二階から試合を見ていたことに気付いていたらしかった。様子がおかしいと思っていたら、ふらふらと逃げるように体育館を飛びだしていったものだから、嫌な予感がして追いかけたが姿が見当たらない。探し回り、僅かな目撃証言を頼りに更衣室に辿り着いた、とのことだった。
「今日のために、あんなに練習したのに……」
「ばかだな、そんなことより自分の心配をしろよ」
有栖川はくしゃりと顔を歪める。
「元々、全校生徒の前で格好悪いところを見せられないなんていう俺のエゴだ。お前のおかげで“活躍する”って目的は十分果たせたんだから、いいんだよ」
言いながら有栖川は、自身の服を脱ぎ捨てる。以前この身体を見た時には、組み敷いて思い切り鳴かせたいという欲で一杯だったが、今はまるきり逆だった。
こいつに抱かれたい、ぐちゃぐちゃにかき乱されたい、そんな思いがどこからか溢れ出そうで、思わず喉を鳴らす。
「Ωには勃たないんじゃなかったの?」
余裕のなさを誤魔化すように、からかい混じりの口調で告げれば、有栖川はぐっと顔を顰めた。
「うるさい。俺が勃たないと困るのはお前だろ、感謝しろ」
偉そうな口振りの割に、彼の方も明らかに余裕がない。まるで俺のヒートにあてられてでもいるみたいだ。
そんなわけがないのに。
「あんた、そんな顔するんだ」
息を荒げ、ぐっと眉根を寄せた有栖川の双眸には、男くさいギラついた光が宿っていた。
「それはこっちの台詞だ」
有栖川は不満げに、吐き捨てるような調子で言う。
「でも有栖川さ、できんの?」
「あ?」
「だってほら、童貞って言ってたし?」
俺が茶化すと、有栖川は盛大に舌を打った。
「バカにするなよ。黙って抱かれろ」
物慣れていないせいか、有栖川の手つきは威勢の良さとはうらはらに、探るようなものだった。その分やたらと丁寧で焦れったい。
ヒートのために元々全身が熱を帯びているから、どこを触られても燻られるようなじわじわとした快感が蓄積されて、更なる熱が育っていくようだった。
「かんぼつ……」
ふと俺の胸元に視線を落とした有栖川が、ぽそりと呟く。
「ほっといてくれ」
みなまで指摘されると決まりが悪くて、素っ気ない口調になった。
俺の乳首はいわゆる仮性陥没というやつで、乳輪の奥に乳頭が埋まっているのだ。真性とは違い刺激を与えれば顔を出すこともあるが、俺のそこは仮性の中でも割と頑固な方だった。
「ふうん」
興味深そうな声を漏らした有栖川の指が、胸に触れてくる。そこはいいからと、俺は強めに拒否を示したが無視された。
「これどうやったら出てくるんだ?」
有栖川の指が、乳輪をカリと指先でひっかく。それだけの刺激で電気が走り、ひゅっと息を呑んだ。
指の動きはしかし止まらない。しつこくひっかいたり摘まみ上げたりと弄ばれて、俺は声を荒げた。
「いぅっ! や、やめろって、言ってんだろ!」
「だが前戯は大事だろう?」
有栖川は真剣な顔でちょっとずれたことを言い出した。男同士なのだし、必ずしも前戯で胸をいじくり回す必要なんてありはしないのに。
これまで俺は誰とする時にも、乳首にはほとんど触らせてこなかった。理由は単純、敏感すぎてキツイからだ。
そこは感じないからなどと嘯いて本気で嫌がる素振りを見せれば、拘る奴はいなかった。それなのにこの童貞ときたら。
「あっ! ひっ、ほんとにやめ……!」
有栖川の指はどんどん遠慮がなくなって、一文字に切ったような割れ目の中につぷりと指を差し込んで、乳頭を穿り出そうとしてくる。
普段引っ込んでいて空気にすら触れないそこは異常なまでに過敏なのに、いきなり温かく硬い指に嬲られて腰が跳ね上がった。
「んぁっ!」
自分でも驚くほど高い声が出てしまい、その恥ずかしさもあってジタバタと足を暴れさせたが、容易に抑え込まれてしまう。
「出てこないな……」
やがてがっかりしたように呟いた有栖川に、ようやく諦めてくれる気になったかとほっと息を吐く。
が。何故か有栖川は「よし」とベッドから降りたかと思うと、勝手に棚の方へ行って俺の私物を漁り始めた。
「お、おい、なにしてんの?」
「んー」
背中で隠れており何をしているのかよく見えなかったが、ほどなく戻ってきた彼の片手には綿棒、もう一方の手には乳液のボトルが握られていた。
嫌な予感がして、俺は咄嗟に両腕で胸をガードしようとしたが、有栖川の動きの方が早かった。
子供を叱る時に腕をつねるみたいに、きゅっと乳首をつねられ、抵抗力を奪われる。それから有栖川は素早く綿棒に乳液を垂らしたかと思うと、二本の指でぐっと乳首の割れ目を広げ、そこに綿棒をさしこんできた。
「あっ!」
刺激になれていない、箱入り娘みたいな乳首にとってこれは暴力だ。その上ヒートのせいで感度が何倍にも上がっているから殊更だった。
ぬるりとした液体をまとったざらつく棒が、スリットの奥で円を描くように動き始める。かと思えば抜き差しを繰り返され、続いて穿り出すような動きに変わり、思い出したようにもう一方の乳首に移動してまた穿られる。
到底受け止めきれない、微かな甘い痛みまでいり混じった、ゾクゾクとする快感の波に揉まれておかしくなりそうだ。ただでさえ頭がぼうっとしているのに、このままじゃ脳が溶ける。
「~~んっ! うぅ、……あ、おっ!」
俺が変に濁った声をあげながらがくがくと腰を揺らしてもだえ苦しんでいるのに、全然手を止めようとしないなんて。有栖川は鬼だ。
「も、もう、あぅっ! ……おねが、ゆるして、」
「許すってなんだ? 別に怒ってないぞ」
なんでこいつは、セックスの時だけちょっと天然なんだろう。実はわざとなのだろうか? よく分からない。分かっているのはこのままじゃ死ぬってことだ。殺される。
「ぴんく……」
やがてぽつり、独り言の調子で有栖川が呟いた。はっとして自身の胸元に視線を落とすと、ついに敗北の白旗をあげた乳頭がピンとたちあがっているのが見えた。
俺は穴を掘って埋まりたいくらいの羞恥をこらえながら、天然鬼畜野郎の説得にかかる。
「ほら、も、出たんだから、満足したろ? 前戯ならじゅうぶんだから、下、」
言いながら有栖川の手を下肢に誘導する。
どうやらこれで納得してくれたようで、有栖川は乳首を解放し、素直に俺の下衣を脱がせた。
こっそりと安堵の息を吐くが、なにも乳首から気を逸らさせることだけが目的というわけでもない。実際下肢はジンジンと疼いて、前から後ろから溢れる体液で下着がぐっしょり濡れている感触だってあった。
「うわ、どろどろ」
熱っぽい口調で囁いた有栖川は、先走りを広げるように戯れに性器を弄った後、ようやく濡れた穴に指を突き入れてきた。
「んっ」
待ちわびた刺激に、我ながら甘えたような声が漏れる。
腹側のしこりを押しこまれ、快感の芽を直接押しつぶされるような感覚は堪らず、足の指がきゅうと丸まった。
不意に、ごくりと唾を呑む有栖川の様子に気づく。突き出た喉仏が上下する。
彼はあからさまに、『ここに挿れたら気持ちよさそうだな』という顔をしていた。顔に書いてあった。
「いいよ」
そんなに拡げなくても、ヒートの時は濡れるし柔らかくなっている。
それでも有栖川は暫し迷う素振りで、増やした指で中を拡げたりしながら様子を確かめていたが、やがて“良し”と判断したのか、それとも単に堪えきれなくなっただけなのか、指を抜いた場所に己のモノをあてがってきた。
熱い怒張に体内を割り開かれる。
ゆっくりと形や熱を刻み込むようにさしこまれるのが堪らない、腰が抜けそうな気持ちよさだった。熱に浮かされた身体が歓喜している。
しかし、ヒートのせいでナカの全部がうずうずしているのに強い刺激は与えられないものだから、痒い場所を撫でられることで却って皮膚の下で痒みが増していく時のような感覚もあった。
見れば頬を上気させた有栖川は、何かに耐えるようにぐっと眉を寄せて、一杯一杯の顔をしている。
俺の腰を両手で強く掴んでいたが、片方の手を一度離して、邪魔そうに長い髪をかき上げる。その時のちょっとした筋肉の動きだとか、露わになる額や、耳から顎のラインなんかにやけに視線が引きよせられて、鼓動が高鳴った。
「うっ」
と。有栖川が不意に呻いて動きを止める。
「急にしめるなよ」
そんなことを言われても無意識だったが、反応に気をよくした俺は、今度は意識的に力を篭めたり抜いたりして後ろを収縮させてみる。すると有栖川は熱い息を吐きながら、ぶるりと背筋を震わせた。
「イキそう? 我慢しなくていいんだぞ?」
ほくそ笑みながら言うと、伸びてきた手にガッと顎を掴まれた。なにをする。
「ずいぶん余裕そうだな?」
有栖川はこめかみをピクピク引き攣らせており、まずいと思った時にはもう遅かった。
今までのゆっくり、というよりねっとりした動きが嘘みたいに激しく穿たれ始める。ばちんばちんと肌をうつ音が室内に響き渡るほどだ。
「あっ! きゅうに、はげし、」
焦れったさから解き放たれ、待ちわびた強い刺激を与えられている。しかし急なことについていけず、俺はただガクガクと人形のように揺さぶられるしかなかった。
極めつけに、上体を倒した有栖川の弧を描く唇が近づいてきて乳首を食まれた。
「んぁっ!?」
剛直に貫かれながら、油断していた乳首を舌で舐め上げられ、転がされる。
同時はやばい。
上と下の両方から、別々の種類の快感に襲われる。過剰なそれを逃がそうと背を仰け反らせるも、逆に胸を押しつけるような格好になってしまう。拍子、有栖川の歯が突起を掠め、ビリリと電気が走った。
「あ、おっ! お、りょうほうダメ! ごめんなひゃい、ごめ、おれがわるかったから!」
俺は煽ったことを後悔し必死に詫びた。
「ごめんなひゃいだって、かーわいい」
勝ち誇ったように有栖川が片頬を吊り上げ、男臭く笑う。
と。体内のものがずるりと瀬戸際まで引き抜かれたかと思うと、次の瞬間一気に、最奥まで突きあげられた。
「あああぁっ!」
絶叫みたいな声をあげながら、俺は絶頂に達した。
「イッたな」
有栖川が満足そうな笑みを浮かべていた。
――この野郎、覚えてろ。
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