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7. 真実
それから、美千代が簡単に理由を話すと、
「そんな男だって、今わかって良かったじゃないか」
父がそう言った。
「そうだよ、姉ちゃん。そんな男、願い下げだよ」
「そういう男は、困難にぶち当たったら、またお前を捨てて逃げるんだ」
口々に言ってくれた。
そうかも知れない。
だとすれば、父が言うように、今わかって良かったのだろう。
救われた気持ちになる一方で、信じられないという思いの方が、まだまだ強い。
本当に、心変わりなんかだろうか。
でも、母がこんなことになった今は、心の整理がつきそうもなかった。
母は、翌日すぐに手術を受けた。
幸い、骨折としては単純な方で、リハビリすれば、元通りに戻れるとのことだった。
ホッとするのと引き換えに、友彦のことが、頭の中で大きく膨らんでいく。
東京へ行くつもりで会社を辞めてしまった美千代は、新たな仕事を探さねばならない。
けれど、今は心がとても追いついていかなくて、もう少し休むことにした。
それから、いろいろなことを考えた。
一度だけ、『連絡ください』とだけLINEもしてみた。
けれど、やはり未読のままだった。
(もしかして、待合せは直接電車でだったのに、私が勘違いして喫茶店で待っていた。それで、私が来ないことに失望し、一人で行ってしまった?)
(でも、なんでLINEは未読なの?そんなに失望させた?怒ったの?)
(やっぱり、父や弟が言うように、怖気づいてしまったの?そんなことないよね?)
様々な感情が、心の中を入れ替わり立ち替わり駆け巡り、しばらくは眠りの浅い夜が続いた。
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