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22歳の友彦とは、同い年。
出会ったのは、3年前の4月。
美千代が事務員として働いている物流センターの現場に、彼が荷物の仕分けバイトで入ってきたのが始まり。
初めて話した時から、心地良さを感じた。
ドラマ観賞という共通の趣味があると分かると、休憩時間には、よく二人で盛り上がっていた。
そんな中、彼は、一人暮らしをしながらS大に通っているのだと知った。
「実家は?遠いの?」
「東京」
美千代の質問に、紙カップのコーヒーを美味そうに飲みながら答える。
「えーっ、遠いんだ」
「そうだね。大学入学で、引っ越してきたら、いつの間にか桜前線を追い越してたぐらい」
「……?」
「実家を出る時に、満開の桜を見て……」
と、彼は遠い目をする。
ここは北海道。桜と言えば、5月の花だ。
彼が続けて、
「……こっちに来てもう一回。1年のうちに2回も満開の桜、見られたんだ」
「へぇー。なんか、おめでたいね」
「おめでたいって、ははは、そうなんだよ。おめでたい男なのよ、俺は」
と、彼はおどけて見せる。それが可笑しくて、二人で笑い合った。
弟が一人いる美千代は、市営団地で4人暮らし。
両親は共働きだが、美千代が幼い頃に、父親が営んでいた町工場が倒産。それ以降は、父親もアルバイトだ。
だから、美千代は苦しい家計に育った。
自ずと、友だちとの付き合いも控え、一人で本を読んで過ごすことが多かった。
男の人と話すのも、慣れていなかった。
けれど、友彦とは違った。
構えずにいられる。
一緒にいるだけで、ホッとできる雰囲気があった。
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