20人が本棚に入れています
本棚に追加
2. 彼の大学
いつしか、付き合うようになっていた。
たまたま、仕事の終わりが一緒になると、夕食を一緒にしたり。
初めはその程度。
1年ほど経った頃、友彦が言った。
「今度、大学に遊びにおいでよ」
「えーっ、いいの?」
「大丈夫だよ。俺と一緒なら」
文学部に入っていろいろ勉強してみたいと思っていたけど、経済的にできなかった美千代は、彼の誘いに、二つ返事でOKした。
新緑のポプラ並木。
新年度がスタートして間もない、希望に満ちた構内。
授業に出ることはできなかったけれど、一緒に歩くだけで楽しかった。
「私もここで勉強したかったなぁ……」
「それなら、公開講座っていう手もあるよ」
「そういうの、あるんだ?」
「うん。週1で通うのとか。講座の種類も、いろいろあるみたい」
連れていってくれた学食で、早めの夕食を食べながら、彼はそんな話をしてくれた。
ネットで調べてみると、美千代の興味のある平安文学の講座があった。
ちょうど仕事が休みの曜日だったこともあり、さっそく申し込んだ。
講義が終わると、友彦と待ち合わせて、学食で夕飯を食べて帰る。
そこで、講義の内容がこんなに面白かったんだよと、つい熱が入ることも。
美千代の話を、友彦は、興味などないはずなのに、ずっと笑顔で聞いてくれていた。
「同じS大生どうしみたいで、楽しいよ」
ある時、そんなふうに言ってくれた。
充実していて、幸せな日々だった。
それから、休みが一緒の日は、よく二人で出かけるようになった。
ただ、お金がない二人は、街をぶらぶら歩いてランチをする程度の、安上がりなもの。
季節が流れ、粉雪の舞うクリスマスイブの日。
講座の最終回を終えた美千代は、待ち合わせていた友彦と、いつものように学食へ行こうとすると、彼が、
「今日は街に出て食べないか?」
「えっ?」
「ほら、イブだろ?」
ニコリとする彼。
最後の講義を終えたばかりで、テンションが高かった美千代も、
「それいいね!」
すぐにOKした。が、雪の中、街を歩くうちに冷静になってきた美千代は、
「友彦くん、ごめん。やっぱ、学食にしない?」
「えーっ……」
「お金、なくて……」
申し訳なさそうに、首をすくめる。
公開講座に使ってしまったのもあって、金欠状態なのだ。
「なら……」
友彦が、いいことを思い付いた、という顔をして、
「今夜は俺が出すよ」
「えー、いいよ。それじゃあ……」
「あっ、そっか。そうだよね」
すぐに引っ込める彼。そう。彼はちゃんと、美千代のことを分かってくれているのだ。
貧乏な家庭で育った美千代は、
(自分の分は、自分で)
その気持ちが、より強かったのだ。
「それなら……」
と、彼はまたいい案を考えた、というように、
「うちに来いよ」
と笑顔を向けた。
最初のコメントを投稿しよう!