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「えっ?」
初めて彼の部屋に誘われたことの嬉しさと戸惑い。
彼は続けて、
「食べ物とか、店で調達して。うちでクリスマスしようよ」
「……」
(行きたい。けど……)
期待と、ちょっぴり抵抗感……返事ができずにいると、
「そこから地下鉄で3つ目なんだ」
友彦はもう歩き出していた。
慌てて付いていくうちに、美千代の心の中で、イブを彼の部屋で過ごすことへの誘惑が勝っていった。
地下鉄を降り、外へ出ると、横断歩道を渡った先に大きなスーパーマーケットがあった。
「あそこで、フライドチキン買っていこう。それに、シャンパンも」
「うん」
もうすっかり、彼の部屋でのクリスマスに期待が膨らむ美千代。
ところが、イブの夜。出来合いのフライドチキンは、2人分買うにはかなりの高価だった。
「私が、照り焼きチキン作るよ」
美千代が提案する。
「えっ?」
「お醤油と、みりんと、お酒、それにお砂糖ある?」
「あるよ」
「あるの!?」
全部は無理だろうと、ダメ元で訊いたのだが、その返事にびっくりすると、
「一応、自炊してるから」
照れ臭そうにする。その表情に、ときめきを覚えながら、
「じゃあ、鶏もも肉だけ買って帰ろう」
と言って、
(しまった!)
と思っても、後の祭り。
(帰ろう、なんて……)
恥かしいのを隠したくて、精肉売り場へと急ぎ足で向かう。
後から付いてきた友彦に、骨付きのもも肉を2パック指差し、
「これがいいね」
「うん」
微笑む友彦に、美千代も自然と微笑がこぼれた。
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