4. お別れ会

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4. お別れ会

 しかし、季節は容赦なく巡っていく。  北海道にも、遅い春の気配が漂い始めた頃、友彦は大学を卒業し、東京に帰郷することになった。  引越し繁忙期の前に、荷物は全て実家に送ってしまったので、彼の部屋は、早々にスッカラカンになった。  そして、引越し前日の3月半ば。  美千代は友彦と、カラオケボックスにいた。 「一旦のお別れ会だから」  初め、友彦はそう言っていた。  何曲か歌ったところで、たまらず、美千代が訊いた。 「就職してからも、こっちに来てくれるの?」 「もちろん。来るさ」 「ホントに来れるの?」 「来るよ、絶対」 「どれくらい?」 「……できるだけ」 「……」  胸の中で、不安が水面に波紋を作る。それが、言葉になる。 「だって、東京と北海道だよ」 「飛行機使えば、すぐだよ」 「そうだけど……」  時間の問題じゃない。  会いたいと思った時に、すぐに行ける距離じゃない。 (距離が離れれば、心も離れていくって言うじゃない……)  本を読んだり、ドラマを観たりしていると、そんなシーンがいっぱいだから。 (私からも、会いに行ければいいのに……)  そう思っても、先立つ物がないのだ。  それも分かってくれているから、彼も「東京に会いに来い」とは言わないし、言いたいのを我慢していることは、よく分かる。  沈黙が流れる。  その空気を振り払うように、友彦がグラスを手に取り、 「飲み物、入れてくるけど、ミチは?」 「じゃあ、トモくんと同じの」  彼は、二人分のグラスを持って出ていった。  入れ替わるように、隣の部屋の歌声が漏れ聞こえてきた。  ♪汽車を待つ君の横で僕は   時計を気にしてる   ……  (伊勢正三・作詞作曲『なごり雪』より)
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