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「なんでこの歌……」
思わず呟く。
(今この歌を聴くのは、ちょっとツラい)
寄り添ってくれるはずのお別れソングなのに、そんな気持ちになることもあるんだ……
そう思っていると、友彦が戻ってきた。
彼も同じ思いなのか、グラスを置くや、端末を持って、ササッと入力した。そして、
「さ、歌おう!」
と言ってジンジャーエールをひと口、ゴクリと飲んだ。
始まったのは、あいみょんさんの『裸の心』。
扉が閉まっていても、かすかに聞こえてくる隣の部屋の声に被せるように、大きな声で歌う友彦。
美千代も口ずさんでいると、2番に入るところで、彼が、もう一本のマイクを美千代に手渡しした。
受け取りながら見ると、彼は「うん」と頷きながら微笑した。
歌い切ったところで、
「ねえ、なんで『裸の心』?」
美千代の言葉に、友彦はまた微笑を向けて、
「この恋が、実りますように……って」
「……」
(そうだよね、そうだよね)
そう言いたかったのに、先に涙が込み上げてきて声に出せなかった。
ジンジャーエールを飲む彼から、洟をすする音がした。
その後で、彼が美千代をそっと抱き寄せ、
「一緒に東京へ出よう」
そう言った。
(私にも、こっちの生活がある)
そう思ったけれど、
(今を逃したら、この恋は、もう実らないかもしれない)
友彦の姿に、美千代はそう感じ、
「行く」
と返事をした。
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