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6. 旅立ちの日
駅前の喫茶店R。
さらに10分待ったが、友彦は現れなかった。
携帯を見る。しかし、連絡もない。
(嘘だったの?友彦さんの気持ち……)
虚ろな目を、窓の外に向ける。
相変わらず、初春の冷たい雨。
LINEを送ってみた。
けど、何分待っても、既読が付かなかった。
約束の時間から、1時間が過ぎた。
乗るはずの列車が、発車する時刻。
目をやると、その列車がゆっくりと出ていくのが見えた。
それが、友彦が去っていく姿に見え、美千代はそれを呆然と見送っていた。
行く宛が無くなった美千代は、仕方なく団地行きのバスに乗り、自宅に帰った。
18時近く。
中に入ると、普段は父か母のどちらかはいるはずなのに、二人ともいなかった。
スマホから、母に電話をかける。
「もしもし」
意外にも、弟の声がした。
なんで?と思いながら、
「和馬?」
「お姉ちゃん、今もう電車の中?」
弟の声に混じって、ざわめきが聞こえる。
「これ、お母さんのスマホでしょ?」
弟の質問に答えずに訊くと、
「そうだけど、母さん、入院しちゃって。今病院にいるんだ」
「えっ……」
ぼんやりとしていた頭が、一気に冴える。
「どうしたの?大丈夫なの?」
「うん。転んで手首を骨折して。だから、命とかは全然大丈夫なんだけど」
「どこ?病院」
「市立病院だけど……」
「和馬もまだいるんでしょ?」
「うん。父さんが来るまでは」
「私もすぐに行くから。何か持っていくものとかある?」
「えーっ、すぐ行くって、お姉ちゃん、今東京に向かってんだろ?」
「……今、家にいるんだ」
「えっ、なんで?どういうこと?」
「それはまた後で話すよ。とにかく今から市立病院に行くから、待ってて!」
和馬がまだ何か言ってる声が聞こえたが、構わず切ると、美千代はタクシーを呼び、病院に向かった。
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