桜選び

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桜選び

 桜の季節になると、私はため息を吐いてしまう。 「どうした?萌恵(もえ)」  夫が私のため息と表情に気付き、声をかけてくれる。毎年のことなのだと前置きしてから、私は早口に捲し立てた。 「ママ友と花見会するのよ。今年は私が桜を選ばなきゃいけなくて、智哉(ともき)くんママがうるさいのよ~もう、嫌になるくらい」  毎年の恒例行事になって四年目の春。リモート花見が居心地良かったとつくづく感じている。 「智哉くんママって丹波京(たんばきょう)さんのことか」 「うん。見てよ、これ!!」  夫にスマホを手渡して、はぁ~とまたため息を吐く。 【T.Love0415 リモート花見正直微妙だったのよね~みんなの顔しかアップにならないし。でも、今年はみんなに会える。とびきりの桜を選んでくれるMさんに期待してるわ!!どんな場所でどんな料理を準備してくれるのかしら?みんな楽しみだよね?】  夫は写真を次々スクロールして見ていく。私と出会う前の花見の桜をアップしていて。 【小さな桜だった。場所も最悪😞⤵️⤵️料理もスーパの惣菜なんて】  名前こそ伏せてはくれている。でも、必ず前の投稿に、イニシャルを出しているからわかる人には伝わる。高飛車でそれでいてリーダ的な彼女の存在に、私と同じように断ろうとするママさんも少なからずいる。だけど・・・ 『きらりちゃんボッチになってもいいのかしらね』  智哉くんは四年生のムードメーカ的存在で、彼が一声かければ、友達だってすぐできるのだときらりが言っていた。  断ってしまったら、四年二組から孤立してしまうのでは?と思うママさんがいて渋々参加している。 「条件としては見映えがいい。料理も健康にいいもの・・・なんだよ注文だらけなら、丹波さんが探せばいいじゃないか!!なぁ、萌恵」  夫はズバズバと言うけれど、私の行動次第できらりの一年が決まるといっていい。それに、ママ友ほど関係が深いものはない。 「なら、あなたも下見に行く?」 「ああ」  夫と私とで花見会場になる河川敷沿いの桜並木を見に行くことになった。
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