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三月に入っても、北国はまだ冬のさなかだ。空には雪がちらつき、吐く息は白い。山では茶色の木々が氷雪をまとい、寒さを耐え忍んでいる。
その山の中腹、雪をかぶった一軒家。部活の朝練から帰ってきた健介が玄関で靴を脱いでいると、家の中から怒声が聞こえてきた。
「こンのダメ狐が! まともに食いモンも用意できねえのか!」
次の瞬間、狐耳の生えた男が、長い白髪を振り乱して健介に飛びついてきた。
「健介たすけてくださいぃぃぃ~! 権六の旦那が無茶を言うんです~!!」
「八ツ葉落ち着いて! 何があったか説明してくれ」
八ツ葉は健介にすがりついて、わざとらしくおいおい泣く。が、それもすぐに止んだ。八ツ葉の頭にゴチン!と、岩のようなゲンコツが落とされたからだ。白目をむいて倒れる八ツ葉の代わりに、荒々しい山のような大男――権六が顔をしかめて答える。
「行き倒れを拾ったんだ。頼む、手伝ってくれねえか、健介」
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