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健介の家は先祖代々、山に住む妖怪と付き合いがある。いま目の前ですったもんだを繰り広げた古狸の権六、それに妖狐の八ツ葉は、特に長い付き合いだ。二人とも健介が生まれたときから何かと世話を焼いていることもあってか、彼が高校生になった今でも仲が良い。ほとんど家族みたいなものだ。そういうわけで、二人はこうして日常的に健介の家に上がりこみ、迷惑にならない程度に好き勝手にすごしている。
上着と荷物を置くために、健介は自室に向かう。その途中で権六に事情を聞くことにした。
「権六が助けたのって、もしかして妖怪?」
「そうだ」
権六の説明はこうだ。権六が朝早く山を歩いていると、倒れている老人を見つけた。身体を起こしてやろうと近づいて気づく。これは同類――人間に化けた古狸だと。すると、権六の腕の中で、老人の様子が変化した。頭には狸耳が、お尻にはしっぽが生えたのだ。変身を維持できないほど、身体が弱っているのだろう。救護が必要だと判断した権六は、八ツ葉に食べ物を持ってくるように指示した。しかし八ツ葉が持ってきたのはカピカピに乾いたまんじゅう。食感はボソボソ、皮が厚く餡はわずかという代物で、当然こんなもので腹が満たせるわけがない。そういうわけで権六は、同朋への無礼を働いた八ツ葉にカミナリを落したというわけだ。
「だって~、ふもとのお堂にお供えされてたもので、これが一番おいしそうに見えたんですもん。お供え物だからご利益もあるかな~と思いましてね?」
いつの間にか意識を取り戻した八ツ葉が口をとがらせる。が、権六がデコピンをしたのでまた静かになった。
「そんなカピカピのまんじゅうなんざ、行き倒れてた奴に食わせるもんじゃねえだろ。普通見りゃわかる」
ため息をついてから、権六は健介に向き直った。
「ひとまずじいさんは、居間のこたつに入らせてる。詳しい話は本人から聞いたほうがいいだろうな」
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