食卓囲めばみな同じ穴のむじな也

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 権六と伊三郎が料理の完成を今か今かと待ち望んでいたそのとき、居間の戸が開いた。 「お待たせ、できたよ」 健介が皿を持って登場した。後ろには人数分の取り皿を持った八ツ葉が控えている。権六は二人がこたつに入れるように、場所を移動した。 「待ってたぜ、入んな。で、何を作ったんだ?」 健介は皿を置く。皿の上には、茶色い、丸っこい三角がずらり。伊三郎がそれらをまじまじと見つめる。 「これは……おいなりさんじゃな」 「そう思うだろ? でも、ちょっと違うんだ。食べてみてくれ」 取り皿と箸を渡しながら、健介が伊三郎を促す。伊三郎は目の前の料理を一つ取り、ぱくっと一口、ほおばった。  外側はいなり寿司には欠かせない、しっとりとした油揚げだ。ほどよい弾力を確かめながら噛み締めるうちに、ふんわり上品にしょうゆが香り、控えめな塩気と甘さがしみ出してくる。  伊三郎はこれをいなり寿司のつもりで食べたが、中のご飯が違うことに気がついた。酸味がない。酢飯ではないのだ。代わりに感じたのは、天ぷらのような香ばしい匂いと、ほのかなかつおだしの風味。まろやかな油のコクがまったりと広がるが、しつこさはない。油揚げのしょうゆ味と相まって、丸みのある、やわらかな味わいが口の中を満たす。ご飯に混じって、サクッとする部分があったり、プチプチのつぶつぶがあったりと、食感も楽しい。 「うむ、うまい! 普通のおいなりさんではないようじゃが、これはどういう料理なんじゃ?」 「味つけした油揚げで、たぬきにぎりを包んだんだ。たぬきにぎりっていうのは、ご飯に揚げ玉を混ぜたおにぎりのこと。狐と狸が一つになってるから、名前を付けるなら『むじなにぎり』かな」 健介の説明を聞いて、伊三郎は楽しそうに笑った。 「ほっほ! むじなにぎりとな! いいのうー、うまいだけでなく、面白い! どれ、皆も一緒に食べてはくれんか? 想像以上に多くての、わし一人では食べきれんわい」 伊三郎の提案を受けて、健介、八ツ葉、権六もむじなにぎりを食べることにした。取り皿を用意したら、皆で手を合わせて「いただきます」を唱える。いの一番に箸を伸ばした八ツ葉は「これはこれで、甘くておいしいですねえ」とご満悦だ。「わさび菜とか、味の引き締まるもんと合わせてもいいな」とは権六の感想だ。むじな三匹から良い評価をもらい、健介は思わず顔がほころぶ。  こうして四人はむじなにぎりをお供に語らいあい、腹と心を満たしたのだった。
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