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そう言って彼女の背中を優しくなでて、介抱する。涙で瞳を潤すソフィが愛おしくて、このまま押し倒したい衝動に駆られるが、耐えた。
今はまだ駄目だ。今は悲しみと絶望を慰める優しい存在を確立させなければならない。
(数か月、いいや幾年だろうと待てる。貴女が頼れるのは、私だけだと心に刻み付けるまで)
***
ソフィが箱庭に来てから一週間が経過した。
俺は朝になると仕事に出かけて、夕方になると戻るという二重生活を送っていた。王位継承権を得たのでやることも増えたが、元々準備もしていたので問題ない。
なにより屋敷に戻ると、ソフィが俺の帰りを待っている。
たったそれだけのことが嬉しくて、今なら何でもできそうな気がした。
やっと手に入れた居場所。
ずっと部屋に篭っていたソフィは、塞ぎこんでばかりいても良くないと思ったのか、昼間は屋敷周辺の散歩をするようになったそうだ。
俺を見つけると、ほんの少し困ったように微笑んでくれた。
「セイエン様?」
「いいや、何でもない」
嬉しかった。
今からなら彼女の一番を塗り替えられる。今度こそ、一緒の時間を過ごして──弟から奪う。
何にせよ、楽しみだ。
ああ、こんなに世界は色鮮やかで、面白いことに溢れていたとは知らなかった。
弟が絶望し、後悔と怒りで心が蝕んでいく。
少しずつタガが外れて、壊れていくであろう姿を見るのは滑稽だ。砕けるのは心か、体かどちらが先だろう。
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