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後書き
「あれから考えてみたんだけど、やっぱ、置き手紙はやめとこーって思いました」
夕方空を背に、まるで他人事みたいに白々しい調子の声が響く。
「手紙がダメってことじゃなくて、書いてみて、あ、やめとこ。って自分で思っちゃって……」
結菜さんが、笑えていない苦笑いを浮かべる。辺りはまだ明るいのに、物陰が増えてきて空気が薄暗い、そんな、夕焼け前の空のもと。
こうして、まるで一方的な話を聞くのも、何度目くらいになっただろう。そんなことを思いながら俺は、軽く頷いて相づちとする。例えば、手紙って何の話だっけ、だなんて思うくらいに繰り返した放課後。終わったはずの話の、続き。
足音が、傍らを駆けていく原付きの排気音に紛れて、また浮かび上がる。低くなった陽の光が電柱に隠れて、また顔を出して、夕方の屋外は暗くて眩しい。
時々。こうして、話の続きを聞かされながら、帰り道に付き添われるようになっていた。
「だから、あ、やめとこ。って思ってるんだけど……」
そして、結菜さんは何を思っているだろう。
「相浦くんなら、手紙もらったら、どう思う?」
何を思って、そんなことを聞くのだろう。胸がざわつく。
「相手による」
例えば、誰からなら嬉しいかを考えそうになる、今。胸がざわつく。少しだけ、息苦しい。
「そっか……そうだよねー。なんにもフォローとかされてない人から言われても困るだろうし、連絡先知ってるくらいなら、そもそも……ってなるよね」
連絡先を知らないだろうことに安堵しかける。こんなにも、胸がざわつくのに。
「あと、相浦くんって、考えてること表情にでないよね」
変わらない調子のやり取りが続くのは、誰のせいなのだろう。結菜さんが不意に、半歩前から見上げるようにして俺の顔を覗き込んできた。
正直なところ、息が詰まって言葉も出なかった。
「ほら、驚いてもくれない」
だけどきっと。こんな本心は、人に見えるものじゃないのだろう。
「やっぱそういうとこ、ちょっと羨ましいな」
結菜さんが、眩しいものでも見るような淡い笑みで、独り言みたいに呟いた。
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