後書き

1/2
前へ
/11ページ
次へ

後書き

「あれから考えてみたんだけど、やっぱ、置き手紙はやめとこーって思いました」  夕方空を背に、まるで他人事みたいに白々しい調子の声が響く。 「手紙がダメってことじゃなくて、書いてみて、あ、やめとこ。って自分で思っちゃって……」  結菜さんが、笑えていない苦笑いを浮かべる。辺りはまだ明るいのに、物陰が増えてきて空気が薄暗い、そんな、夕焼け前の空のもと。  こうして、まるで一方的な話を聞くのも、何度目くらいになっただろう。そんなことを思いながら俺は、軽く頷いて相づちとする。例えば、手紙って何の話だっけ、だなんて思うくらいに繰り返した放課後。終わったはずの話の、続き。  足音が、傍らを駆けていく原付きの排気音に紛れて、また浮かび上がる。低くなった陽の光が電柱に隠れて、また顔を出して、夕方の屋外は暗くて眩しい。  時々。こうして、話の続きを聞かされながら、帰り道に付き添われるようになっていた。 「だから、あ、やめとこ。って思ってるんだけど……」  そして、結菜さんは何を思っているだろう。 「相浦くんなら、手紙もらったら、どう思う?」  何を思って、そんなことを聞くのだろう。胸がざわつく。 「相手による」  例えば、誰からなら嬉しいかを考えそうになる、今。胸がざわつく。少しだけ、息苦しい。 「そっか……そうだよねー。なんにもフォローとかされてない人から言われても困るだろうし、連絡先知ってるくらいなら、そもそも……ってなるよね」  連絡先を知らないだろうことに安堵しかける。こんなにも、胸がざわつくのに。 「あと、相浦くんって、考えてること表情にでないよね」  変わらない調子のやり取りが続くのは、誰のせいなのだろう。結菜さんが不意に、半歩前から見上げるようにして俺の顔を覗き込んできた。  正直なところ、息が詰まって言葉も出なかった。 「ほら、驚いてもくれない」  だけどきっと。こんな本心は、人に見えるものじゃないのだろう。 「やっぱそういうとこ、ちょっと羨ましいな」  結菜さんが、眩しいものでも見るような淡い笑みで、独り言みたいに呟いた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加