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その目に、どんな人を思い描いていたのだろう。いつも笑い声の中にいて、今が一番楽しいような、それこそ眩しい中にいて。
「……秘密の話、だけど」
夕方、放課後の教室に、似合わない人なのに。
「なんで、俺に?」
ほとんど話したこともない俺のことが、どんな風に見えていたのだろう。
「今更!? っていうか、なんで今っ?」
少なくとも考え事が顔に出ないのは確からしい。それこそ、前に聞いてはぐらかされた、だなんて伝わりもしないのだろう。
「こっちから話しておいてなんだけど、リアクション薄いから。最初の頃、不安だったんだよ?」
そして、今更感のある思いを抱えていたのは、お互い様、ということだろうか。
とはいえ俺の方は、安直な話だ。何かを期待しているみたいで、嫌だったんだ。今は、いっそ楽にしてほしいとすら思っている。
華やかな人で……隣のクラスに好きな人がいて。相談相手なんて他にいくらでもいそうな。
──そう見える、かな?
だけど、いつか聞いた些細な言葉が、本当はずっと頭に残っていた。
「そうだねー、なんて言ったらいいんだろ」
だからこれは、ただの興味本位。続きを聞きたい気持ちが逸る理由なんて、ないはずで。
「相浦くんって、愛想とか使うの好きじゃないんでしょ?」
結菜さんの見る俺の話に浮き足立つ必要も、ない。分かっているのに、息苦しさに、なぜだか夕焼けの色を思う。
「うぅ、反応が薄い。これは外しちゃったかな……」
だけど、本当に顔に出ず、伝わらないのだろう。結菜さんが言い淀むも、俺だって何を返せばいいか分からない。気まずいのかどうかすら不安になる沈黙が続く。
足音が重なる。
「でも、でも。相浦くん、『大したことじゃない』とか、『あとから考えよ』とか。言わないでしょ?」
結局先に切り出すのは、いつも結菜さんだ。俺は別に、何か特別なことを言えたことなんてないと思っているのに。
「相浦くんで良かった、って。本当に思ってるんだよ? 笑わないで聞いてくれたり、だけど違うことは違うって、分かりにくいけど言ってくれたり」
気まぐれに俺を見て、くすぐったそうな笑みを浮かべる。かと思えば、急に目を逸らすように遠くを見て、一瞬の間。
「変じゃないって、言ってくれたから」
内緒話での約束を交わすみたいに、素っ気ないようで何か感情的な声が、やっぱり独り言みたいに、静かな路地裏に響いた。胸が痛むような、息苦しさすら感じていた。だけど。
立ち止まったのは、そんな理由じゃなくて。
他に誰が歩いているところも見たことがないような路地裏を抜けて、比較的大きな道路に差し掛かる。道なりに、遠ざかる方へ歩くのが俺の通学路で。
向かい側にある無人駅から電車に乗るのが、結菜さんの帰り道だった。
二駅と少し向こうから。
結菜さんにとっても、少しレベルを落とした進学先だったと言う。そんな、微妙な遠くから、ろくに知人もいないという、この地の学校へ。
「今日もありがと。みんなには秘密、だからね?」
そして結菜さんはいつものようにわざとらしいほど軽い調子で言う。華やかな、眩しいほどの笑み。誰とだって、変わらず笑い合えるような。
夕方の似合わない雰囲気と、出で立ち。こなれた風に軽く手を振る、いつの間にか馴染んだ、いつもの終わり。
「……いいよ」
俺から何かを言うなんて、初めてかもしれないタイミングで。
きっと、話してくれたほど、大それたことじゃないのだと分かっている。誰でも良かったわけじゃなくとも、俺じゃなきゃダメだったわけ、じゃない。始まる前から終わった話だってことくらい、痛いくらいに知っている。
──相浦くんで良かった。
知っているはず、なのに。
「今日はヒマだから、もう少し、いいよ」
自分でも分からないまま、まるでひとりでに。言葉を止められなかった。溺れそうなほど息が苦しい。顔が火照っているのが自分でも分かるくらい、胸がザワザワする。何か、良くないくらいに先走っていると分かっているのに。
こんな想いも、何一つ、透けて見えないことも分かってしまっていたから。ただ、驚いた表情を見せる結菜さんの目に、目を合わせて。抑えきれなかったワガママの答えを待つ。
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