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(了)
「他のみんなには秘密だよ? 私、好きな人がいるの」
放課後の教室に、一人分の声と足音が響く。そして答える人は誰もいない。
「隣のクラスの和中くん。今度、告白するつもりなんだー。だから、ね? それまでは秘密なの」
なのに、打ち明け話でもするかのように朗らかな声が続く。窓の向こう、どこかの運動部が上げた掛け声が、彼女の言葉の余韻を散らした。
それは独り言だったのだろうか?
またもや返答はない。返事をする人がいないからだ。この教室にいるのは、声の主。
そして、授業の終わりから寝たフリを続けて起きるタイミングを見失っていた、俺と。その二人だけなのだから。
「……ねえ、相浦くん」
けれど、彼女が呼んだ名字は、紛れもなく俺のもので。
「お願いがあるの」
声はずっとこっちを向いていて、足音はだんだんと近づいてくる。返事はない。しない。それでもすぐ隣まで歩いてきた彼女は、うつ伏せる俺の腕の横に手をついて、身を寄せてくる。そんな気配。
「私の秘密、みんなには黙っててね」
内緒話をするみたいに、今更、耳元でささやく。それきり離れる様子がなくて、多分、返事を待っている。起きていることはお見通しだと言わんばかりに。
俺が今、何を思うかは別にして。
「りょー」
解まで言ってやることもない。ただ、それだけを告げてやった。それじゃ、この話は終了で。
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