縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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「ナースやコメディカルに疎まれていることぐらい気付いている。偉そうなくせに使えない、良いのは学歴と顔だけだって言われていることも、悔しいが事実だ」 「顔が良いのは自覚あるんだ」  睨みつけると、伊吹は苦笑をして肩を竦めた。 「確かに指示細かいし厳しいこと言うし、ずっと看てるこっちの身にもなれって思うけどさ。でも、先生が患者さんのことを一番に考えてるってことぐらい本当は皆ちゃんと分かってるんだよ。ただ、もうちょっとだけ俺らのことを信用して欲しい、同じチームなんだから」 「・・別に気を遣ってもらわなくてもいい」  弱気を見透かされないように目をそらす。 「君も分かっただろ。普段は医師として偉そうに指示を出しているくせに、本当の俺はDomの一言に喜んで簡単にひれ伏す浅ましいSubだ。忌々しいことに、ダイナミクスに縛られて体調管理すら一人では満足に出来ない」 「じゃあさ、これからも俺とプレイしよっか」 「はあ?」  ちょっと飲みに行こっか、とでも言うぐらいの軽さだった。盛大に顔を顰める怜一をよそに、伊吹は相変わらずへらりと笑っている。 「そうすれば、今日みたいにぎりぎりまで耐える必要がなくなるし、コントロールがうまくいけば仕事もやりやすくなるんじゃない?俺もプレイが出来て一石二鳥」 「悪いが、俺はDomに頼るつもりはない」 「あれじゃ満足出来なかった?その割には随分気持よさそうにイってたけど」 「・・お前・・っ!?」  顔を上げて、息を飲んだ。 「次からは手加減なんてしないから、どう?」  伊吹の顔からはさっきまでの陽気さは消え去り、唇の右端だけを器用に上げて冷ややかに笑っていた。光沢のある低い声はひたひたと怜一を追い詰めて誘惑する。  グレアは向けられていないにも関わらず無条件に頷いてしまいそうになるが、 「・・二度とお前の世話にはならない、絶対に」  それでも歯を食いしばり喉の奥からなんとか声を絞りだすと、伊吹の表情がゆるんだ。 「えー、なんで?またしようよ」 「いいや、これきりだ」 「そっか、残念」  窓越しの初夏の日差しに照らされて、二人でただ黙ってぬるくなったビールを飲んだ。 「佐々先生・・ご、ご相談がありますっ」  これはデジャブか。眉間に皺を寄せる怜一の前でがちがちに緊張をしているのは例の新人看護師の山瀬だ。並んで立つと怜一の方が頭一つ分背が高く、ますます萎縮して小さくなってしまった。  ナースステーションには怜一と山瀬のほかに伊吹もいたが、パソコンに向かって一心不乱に記録をしていて、フォローする余裕はないらしい。怜一が予定外の緊急入院を二件も送り込んだために今日は病棟がばたついていて、それも仕方がないことだと言えた。 「それで、病棟回診が終わった後にわざわざ呼び出すほど、急ぎの用件とは?」 「す、すみません。あの、実は、先生が担当の飯島さんが退院を希望されていて・・」  山瀬は意を決した様子でわずかに震える声でそう言った。 「飯島さんのご主人は、ソーシャルワーカーが紹介した医療ケア付きの施設を見学されたそうなんですが、やっぱり自宅へ連れて帰りたい、一度退院してみてもし難しければその時は諦めるけど、出来れば自宅でお看取りをしたいと希望されているんです」  先日の苦い後悔を思い出さずにはいられなかった。何が最善だったのか、今でも答えは出ないけれど。 「自宅への退院は現実的ではないでしょう。ご家族にも、飯島さん自身にも負担が大きい」
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