縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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 見えない圧力に体を地面に押し付けられて両手を地面に着いた。しゃがみ込んだ伊吹に前髪を掴まれ、顔を上げさせられる。交わった目の奥は笑っていなくて、仄暗く底が見えず、普段の気安い陽気さは欠片も無かった。 「俺、『這いつくばれ』って言ってないよね。聞いてた?次出来なかったら、お仕置きするよ」  それは嫌だ。お仕置きを受けることよりも、Domを失望させることが嫌だと思った。  首を伸ばしてもう一度差し出された指をおずおずと口に含む。退化した水かき、短く切りそろえられた爪、舌にがさがさとひっかかるささくれ。怜一のDomを喜ばせるために丹念に舌を這わせる。 「『いい子』。そうそう、上手だよ」 「ん・・」 「もうちょっと奥まで行ける?『答えて』」 「出来ます・・」  口の中の指が動いて歯列をなぞり、口蓋、舌、頬の内側を順番に擽る。 「知ってる?口の中にも性感帯ってあんの」 「ん・・あっ・・」 「ここは気持ちいい?苦しい?」  喉との境目をこすられて、反射で嘔吐きそうになるのをこらえる。涙目で見上げると、伊吹は薄く笑って耳元に顔を寄せてきた。 「ねえ、俺のこともっと気持ちよくしてよ」  控えめな音量で囁かれた声に脳みそを揺さぶられて、怜一は唇から唾液がこぼれるのも厭わずに無我夢中で指に奉仕を続けた。 「『止めて』、もういいよ」  指がふやけてしまうのではないかと思うほど奉仕を続けたところで、ようやく満足したらしい。名残惜しそうに見上げる怜一の前で、濡れそぼって光る指で唇の端からこぼれた唾液をすくい取ると、伊吹はそのまま自分の口に含んだ。 「『ほら『見て』」 「あ、い、いや」 「『黙って』」  さっきまで怜一が口に含んでいた指を、見せつけるかのように目の前で舐めしゃぶる。そうすると、怜一には一切触れていないというのに、愛撫を施されている指と自分の体が感覚を共有しているような奇妙な錯覚に陥り、神経がざわめいた。 「見てるだけで、気持ちよくなっちゃった?」 「・・っ!」  体が戦慄いて、とっさに床に手をつく。 「なに勝手に這いつくばってんの?『見て』も出来てないしさあ。お仕置きしないとだね」 「あぁ・・、ごめん、なさい」 「『這いつくばれ』、そして後ろに手をまわして」 「ん・・」  言われた通りの姿勢をとると、首にかけていた湿ったタオルで手首を拘束された。 「今から10カウント数えるから、その間にホントのことを『言って』。分かった?」 「はい・・」 「いーち」  黒いスラックスの上から尻を平手で叩かれ、すぱんと乾いた音がする。 「先生さあ、さっき嘘ついたよね」 「・・嘘?」 「とぼけたってだめだよ。にーい」  すぱん。また尻を叩かれる。音の割に痛みはなく、ただ手で打たれる衝撃を感じる。 「さっき、思いっきりひどいほうがいいって言ったの、あれ嘘でしょ」 「・・嘘じゃない」  外からの衝撃だけではなく、体の内側からも振動が生まれ、視界がぶれる。 「さーん。本当は、ひどくされるのは好きじゃないよね。甘やかされるようなプレイの方が好きで、頑張ったらたくさん誉められたいし、ご褒美だって欲しいと思ってる」 「違うっ!」 「よーん。10までに本当のこと言わないと、お仕置きが増えるけど、いいの?」 「・・君の好きにすればいい」  ぎゅっと目をつぶる。本当は嫌だ。よく頑張ったって褒めて欲しいし、何よりDomを喜ばせたい。失望されたくないし、必要とされるSubでありたい。
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