縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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「ごー。我慢強いのもいいけどさあ、素直になったほうが身のためだよ。それとも、お仕置き欲しくてわざとやってんの?」  髪を振り乱して激しく頭を左右に振る。 「ろーく。このままじゃ、ご褒美も無しだけど、いいの?欲しいんでしょ?」 「欲しくなんか・・」  ひれ伏したくない。跪きたい。言いなりになりたくない。褒められたい。放って欲しい。服従したい。理性と本能の間で、天秤が左右に等しくふれている。 「なーな、はーち」 「・・んっ、あぁ」  打たれる回数が増えるにつれて、尻がじんじんと痛みだし、さらにその奥の尾てい骨から腰骨にかけても不審な疼きが走る。  視線の一つ言葉の一つで、簡単に服従させることが出来るのに、意地の悪い笑みを浮かべて弄ぶ伊吹が腹立たしい。そして、それを甘んじて受け入れている自分のことも。 「きゅーう。仕方がないなあ」  膝から下しか見えていなかった伊吹が、目の前でしゃがんで突然視界に入りこんで来たかと思うと、唇を歪めて愉快そうに笑った。 「『教えて』。先生は俺にどうされたい?」  赤い唇、覗く舌。待ち望んだ一言で、ふらふらと左右に揺れながら均衡と保っていた天秤は、はっきりと本能のほうへ針がふれた。 「・・もっと頑張るから、たくさん命令して、たくさん褒めて欲しい・・」  「じゅーう」  最後は、叩かずに優しく手を添えられた。 「『いい子』。えらい、ちゃんと言えたじゃん」 「・・あぁっ」  腰のあたりでわだかまっていた愉悦が這い上がって脊椎を駆け上がり、ぞくぞくとした快感に首をすくめる。全身が待ちわびていた悦びに震え、力の入らない膝で全身を支えようと踏ん張っていたが、床との接点がぐにゃりと歪むような感覚に、とうとう前のめりに倒れこんだ。 「っ、あぶな。もう限界?案外こらえ性がないんだね」  床に顔が叩きつけられる寸前で、腕を回され抱きとめられる。地面から伸びていた重力の糸がぷつんと切り離されてしまったかのようなふわふわとした浮遊感を感じ、自分がベッドに移動させられたことも手首の拘束をとかれたことにも気付かなかった。 「ねえ、誰がイっていいって言った?」 「あ・・」  言われるまで気が付かなかったが、確かに下着の中が濡れて気持ちが悪い。  ダイナミクスの欲求と性的快感は密接に繋がっており、プレイとセックスの線引きは時に曖昧だ。もちろん怜一だって今までに経験しているが、しかしこんな簡単に、その上気が付かないうちになんて、まさかそんな。 「嫌だ、違う、これは・・」  咄嗟に足を閉じて粗相を隠そうとしたが、重力の制御を失った体は思うように動いてくれない。  勝手にひとりで気持ちよくなってしまったことへの羞恥、罪悪感、そしてDomを落胆させてしまうことへの恐怖。体の動かし方だけではなく、息の仕方も分からなくなり、頭がぼんやりしてくる。 「別に怒ってないから、息を止めないで。はい吸って、吐いて。うん、『いい子』だね」 「・・は、・・はぁ」  背をさする伊吹からはさっきまでの威圧感は消えて失せていた。失望も怒りも含まない穏やかな視線を向けられると、呼吸が嘘みたいに楽になり、ふわふわと現実味のない多幸感だけが残った。 「先生、もしかしてスペースに入った?ちょっとちょろすぎるよ、俺は嬉しいけど」 「・・スペース?今までそんなこと・・」 「もしかして初めて?」
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