縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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 仕方なしにテーブルについてピザに手を伸ばすと、まるでタイミングを見計らっていたかのように、正面に座った伊吹が缶ビールを飲みながら尋ねた。 「言ったところでダイナミクスに縛られる不自由さや、グレアやコマンドに従わざるを得ない屈辱は、君には分からないだろ」  ジト目で睨むと冷えた缶ビールを渡される。朝食にしてはヘヴィだが、労働あとの腹ごしらえと考えればそう悪くはない。観念してもう一度ため息をつき、プルタブを開ける。 「医者はDomが多いのは知っているか」 「言われてみれば確かにそうだねえ」 「俺の実家は代々医者で病院を経営しているが、親戚はほとんどDomだ。両親も姉もDomで、それなのに俺だけがSubだった」  普段なら絶対に話さないことを打ち明ける気になったのは、不本意ではあるが結果的には助けてもらった義理と、昼間からアルコールを摂取する解放感のせいだろう。もしくは、弱味を知られて取り繕う意味がなくなったせいだろうか。 「高校生の時に受けた検査でSubだと分かって、それまで自分も家族と同じDomだろうと思っていたから驚きはしたが、それでもあまり深刻には考えていなかった」  政治家や企業の社長など、いわゆる社会的地位の高い職業の人間にはDomが多いと言われている。医者も同じで、怜一の実家のように代々家業を引き継いでいる場合には、遺伝の問題もあり特にその傾向が強い。  NormalやSubが能力で劣っているというわけではなく、支配欲や征服欲を満たそうとして結果的にそのような地位につくDomの割合が多くなるのだという。 「医大生の時に抑制剤だけじゃコントロールがうまく出来なくなってきて、仕方なくマッチングアプリでプレイの相手を探したら、何の偶然か同じゼミの奴が来たんだ」 「あー、それは気まずいね」 「気まずいなんてものじゃない」  缶を掴む指に力が入る。窓から入る風は今朝までの雨の名残を含んで生暖かく、冷えた缶にはびっしりと水滴がつく。 「噂があっという間に広がって、色んな奴にグレアを向けられて気が狂うかと思った。どんなに嫌な相手も命令も拒否出来なくて、何度もドロップした。抑制剤の量を限界まで増やしたら、過剰にグレアやコマンドに反応することは減ったが、蔑まれて貶められる屈辱は絶対に忘れない」  それでもドロップアウトせずに好成績をキープしたのは、意地としか言いようがない。  近年では、ダイナミクスで優劣をつけることや、悪用する行為は法律で禁じられているが、望まないプレイを強要されたり犯罪に巻き込まれてしまうSubはあとを絶たない。 「医師免許を取って大学病院に入っても、Sub性はハンデでしかなかった。自己顕示欲と競争心の強いDomばかりの医局は派閥や権威争いが激しくて、みんなライバルを蹴落とすためなら使えるものは何だって使うような奴ばかりだったから」 「この病院に来たのって、それが理由?」  足元のラグに目を落として頷く。 「Subでさえなければ、もっと臨床経験を積んで研究を続けて・・こんな田舎の病院に来ようなんて考えもしなかっただろうな」  同期達が順当にキャリアを積んでいる一方で、怜一は思い描いた場所とは程遠い場所で、目指す先を見失いもがいている。 「前いたのってK大病院だっけ?先生みたいなエリートのドクターがなんでうちの病院に?って不思議だったんだよね」 「悪かったな、期待外れで」 「え、なんでそうなんの」
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