縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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「でも、あの、病状の回復は望めなくても、ご家族にも患者さんご本人にも悔いの残らないようにして欲しいんです。だから・・」  しどろもどろながらも怜一に食い下がる山瀬も、先日の件で何か思うことがあるのだろう。  主治医として病状の面を優先すれば退院は積極的に勧められるものではない。だが、しかし。  ??ただ、もうちょっとだけ俺らのことを信用して欲しい、同じチームなんだから。  ふと思い出した伊吹の言葉。怜一の眉間の皺がさらに深くなり、かわいそうな山瀬はほとんど泣きそうになっている。 「難しいのは十分は分かってます。でも、本当に見当の余地もないほど絶対に無理、なんでしょうか・・?」 「嚥下障害の評価、試験外泊と退院前訪問で自宅の環境調整、ご主人への在宅酸素や吸引、最低限のケア指導。訪問診療・看護の導入、出来れば夜間も対応できるところが良い」 「えっと、それって・・」 「まずは自宅へ戻るリスクを十分に理解してもらう必要がある。I?をするので日程調整をして下さい。いいですね?」  鳩が豆鉄砲を食らうとはまさにこのことか。自分から言い出したくせに、山瀬は信じられないといった様子で丸い目をさらに丸くしている。時間差でようやく首振り人形のようにこくこくと頷いたが、果たして大丈夫だろうか。  不安が胸をよぎった時、ふとあることに気付く。さっきまで聞こえていたキーボードを打つ音が止まっている。振り返ると、頬杖をついて生暖かい笑顔で見守っている伊吹と目が合い、苦々しい思いがこみ上げ小さく舌打ちをした。 「・・朝比奈さん」 「なんですか?佐々先生」 「君も聞いていたはずだ。退院支援のフォローをお願いします」  逃げるように病棟を出ると、追い掛けてきた伊吹に強引にリネン庫に押し込まれた。 「一体何の用ですか」 「まあまあ。すぐに終わるから」  唇を噛みしめて睨むが、効果はない。伊吹がただ陽気で人当たりがいいだけ男ではないことはとっくに分かっているが、手のひらの上でいいように転がされているようで、無性に腹が立った。 「何か用件があるなら、早くしてくれ」  シーツがうず高く積まれたラックが並ぶ薄暗いリネン庫で、自然と距離が近づく。 「ん?そろそろ恋しい頃かなと思って」 「言っただろ、二度と君の世話にならない」 「いつまでそう言ってられるかなー」  じりじりと追い詰められ、ついに背中がラックに当たった。もう逃げ場はない。 「おい、朝比奈。そこをどいて??」 「『おいで』」  怜一の言葉を打ち消す指示。こんなに狭い場所でしか至近距離から従うと、自然と伊吹へ身を寄せることになり、もうほとんど抱きしめられる寸前になった。 「やめろ、一体何をする」 「何もしないよ、先生が嫌がることは。でもこうしないと逃げちゃうでしょ」  ポンと肩に手をのせられる。ネイビーのスクラブから伸びた腕は筋肉質で引き締まっていて、浮き出る血管はルート確保が容易そうだと目で追ってしまうのは職業病だ。 「『いい子』。偉かったね、この前俺が言ったの、ちゃんと聞いてくれたんだ」 「別に君に言われたからじゃない。あくまで主治医としての判断だ」 「ちゃんと俺のことを信頼してくれて、全部いうこと聞けたね、『いい子』だねえ」  相反する労りと威圧をびりびりと肌で感じ、これはアフターケアなのだと気付く。あの日から今日までプレイが続いているのだ。 「あ、いや・・」
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