縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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 一度気付くと、肩に乗った手の熱を意識せずにはいられなくなった。体がよろめいて背中を預けているラックががたんと音を立てる。 「へえ、こんなとこで気持ちよくなっちゃうの」 「は?お前、何言って・・っ!」  伊吹の手がおもむろに熱を帯び始めた怜一の下肢に触れる。思わず息を飲み、腰が逃げた。 「ほら、期待してるんじゃん。俺も、先生が素直すぎて健気過ぎてもう限界」  そう言って、自分の下肢もぐいと押し付けてくる。勘違いでなければ、伊吹のそれは怜一と同じように欲を孕んで頭をもたげている。 「健気でいい子の先生に、ご褒美をあげようと思うんだけど、どう?」 「朝比奈、俺は今勤務中で・・!」 「『おすわり』。今日さあ、どっかの先生がね?予定外の入院を二件も送り込んできてね、俺すっごい頑張ったわけよ。だから、ちょっとぐらいサボったっていいと思わない?」  背骨が急に役目を果たさなくなり、ずるずると床に座り込む。白衣が汚れることを気に留める余裕もない。 「ご褒美、欲しくないの?このままじゃ先生も俺も満足出来ないままだけど、どうする?」 「くそっ」  欲しい。今すぐに与えて欲しい。  でも、こんな場所で?しかも勤務中に?わずかに残る良識が衝動にブレーキをかける。  逡巡する怜一を見て、伊吹はため息をついた。 「じゃあ、やめとこうか。『立って』」 「やだ」  よろよろと立ち上がり、震える声で追いすがる。ああ、くそ。悔しいけれど、完敗だ。 「何?聞こえないよ、先生」 「このままじゃ、嫌だ。早くっ・・」  涙がこぼれる寸前の湿って歪んだ声で吐き出した。ご褒美も欲しいけれど、目の前のDomを満足させたい。 「よく言えました、『いい子』だね」  ついさっきまで医師と看護師として指示を出す側と従う側だった立場が、砂時計をひっくり返すみたいにいとも簡単に逆転した。 「『脱いで』」  プレイの時によく使われる羞恥を煽るコマンドだ。良識をかなぐり捨てシャツのボタンに手をかける。 「『待って』、時間ないから下だけでいいよ」  ベルトを緩めてボトムを下着ごと足元に下ろす。立ち上がった陰部とこぼれた蜜で濡れた淡い茂みが晒される。「俺のもお願い」と言われ、伊吹のズボンの前を震える手で寛げた。  青白いLEDライトの下に晒される欲情。 ??ねえ、朝比奈君知らない?そろそろ申し送りしたいんだけど ??さあ。さっきまで詰め所にいたんだけど  扉一枚隔てて日常と非日常が交差する。 「あ、朝比奈」 「しっ。あんまり時間がなさそうだね」 「こんなとこでどうかしてる・・」 「『ハグして』。顔が見えないほうが集中出来るでしょ」  目をつぶり、自分のとは違うがっしりした肩に顔を埋める。晒け出したお互いの秘部が触れあって驚いて腰を引くが、中心をまとめて握りこまれてしまい逃げられなかった。 「自分が気持ちよくなることだけ考えてて」 「う、あ・・」  緩急をつけて上下に擦られ、快感が跳ね上がる。男性器以外に体のどこにもないすべすべとして張りのある皮膚、骨ばってごつごつと大きい手のひら。自分のものではない熱を本来秘するべき場所で感じ、自分がこぼした体液がぬめり伊吹のそれと混ざりあう。 「ほら、『見て』。えっろ」 「や、ばか」  のろのろと目を落とすと、色も形も全然違うもの同士が触れ合い、お互いの体液で濡れて光り、大きな手にこすり合わされる度に今か今かと解放の時を待って震えている。
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