縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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 仕事着を着たままそこだけ露出しているのがひどく滑稽で、そして同じぐらい淫靡だった。 「も、無理。早く」 「ん。俺もそろそろ限界」  往復する手の動きが早くなる。摩擦が強くなれば快感も倍に跳ね上がり、喉をのけぞらせた。 「あっ」 「気持ちよくなるの上手、いい子だね」 「あ、あ、そんなこと、上手も下手もないだろ」  肩口で息も絶え絶えに反論する。 「えー、じゃあ気持ちよくないの?」  それには答えずに服の生地ごと肩に噛みつくと、耳元で息を詰めるのが分かった。  逃げることを許されず、くびれや先端の窪みや粘膜の弱い場所を何度も何度も容赦なく追い立てられ、体の奥からじわじわと熱がせり上がってきて出口を探して暴れる。 「いいよ、『イッて』」  ようやく許諾を与えられ、沸き上がる熱に体を小刻みに震わせながら、一気に昇りつめる。 「う、ああぁぁっ」 「んっ・・・」  果てたのは二人同時だった。 「『いい子』。ちゃんとイケて偉かった」 「・・言うな」  ゆっくりと体が弛緩するのと同時に頭も冷えていき、宙に浮いていた意識が現実に戻って来る。慌てて確認をすると、いつの間に準備をしたのか放ったものは伊吹がガーゼで受け止めていて、白衣を汚す失態は犯さずに済んだらしい。 「うわ、やば。早く申し送り行かないと」  恨みがましく睨んでも伊吹はどこ吹く風で、怜一の身支度をかいがいしく整えている。 「・・もう二度と、こんなところでしない」 「こんなところじゃなければいいんだ、やった」  らしくもなく、顔が赤くなる。少なくとも、すぐさま否定するのが惜しくなるぐらい、感じていたのは確かだ。    日曜の正午すぎ。けたたましいセミの鳴き声と照り付ける真夏の日差しのせいで、駅からわずか数分の距離が永遠に感じるほど遠い。  怜一は手土産の紙袋を片手に、既に何度か訪れたことのある部屋のインターフォンを押した。紙袋の中身は、赤いリボンのかけられたクッキー缶で、患者の家族から貰ったものだ。 「いらっしゃい。丁度良かった、俺もさっき帰って来たとこ」 「今?今日は夜勤明けって言ってなかったか」 「勤務が終わる直前に急変があってさ、帰るに帰れなくなっちゃった。あ、先生の患者さんじゃないから安心して」 「それは災難だったな。お疲れ様」  ちょうど甘いの食べたかったから嬉しいと、伊吹はさっそくリボンを解いている。  もう二度としないと誓ったはずだったのに、伊吹とはあれから何度もプレイをしている。身も蓋もない言い方をすれば、味を占めてしまったのだ。本当に、腹立たしいことに。  大抵はお互いの休日か伊吹の夜勤明けで、悔しいことに怜一は毎回必ずと言っていいほどスペースに入ってしまう。「相性がすごくいいんじゃない?」とは伊吹の談で、定期的なプレイのおかげか相性のよさかそれともその両方か、怜一の体調はこれまでとは比べ物にならないくらい安定している。  暗黙の了解で先にシャワーを浴びると、伊吹はコーヒーを淹れてクッキーをかじっていた。 「今日は飲まないのか」 「疲れすぎてて悪酔いしそうだからやめとく」  夜勤明けは必ずビールを飲むこと、甘いものも好きなこと、プレイの時だけ鋭利な一面が垣間見えること。正式なパートナーでもなければ恋人関係でもない不確かな関係の中でも、知っていることは確実に増えて、不確かな関係のまま、拠り所になりつつあった。 「なあに考えてんの。よゆーだね、怜一さん」 「な、驚かさないでくれ」
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