縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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 白川は怜一のほうを向くと目を弓なりに細め、薄い唇の両端を引き上げて笑った。一見穏やかな好青年にしか見えて老若男女問わず人から好かれるが、それが外向きの姿だということを怜一は嫌と言うほど知っている。 「・・はじめまして。よろしくお願いします」  顔色をなくす怜一に、白川は握手を求めた。震えを隠して手を差し出すとぞっとするほど冷たくて、ゴツゴツした大きな手の熱が無性に恋しくなった。 「食堂ってどこにあるんですか?そうだ、お昼ご一緒しません?」 「あとで案内だけします」  二人きりになったタイミングで隣のデスクから覗き込んできて、胡散臭い笑顔を見せる。 「つれないなあ、佐々先生は。なんでそんなに他人行儀なんですか」 「・・初めましてって言ったのはそっちでしょう。それに、私たちは慣れ合うような関係じゃないはずだ」 「寂しいなあ。ま、仲良くしましょうね」  タイミングよく部長が白川を呼びに来て、医局に一人残される。  また逃げ出してしまおうか。それもいい、また全然違う場所で新しくやり直すのも。でも。 「ひれ伏してなんかやるものか」  そっとデスクの引き出しを開けると、片隅に赤いリボンが覗いた。 「白川先生、田辺さんが最近血糖コントロールが不良なんです」 「処変して特食出してるのにこんなに高いのはおかしいなあ。隠れて間食してるかもしれないですね」 「患者を疑うのかって怒って、私たちには床頭台もチェックさせてもらえなくて・・」 「うん、僕が話してみます。男の医者から言ったら案外素直に聞き入れてもらえたりするし」 「助かります~」  白川は表面的には人当たりが良く、あっという間に他の医師や病棟の看護師にも受け入れられ、一か月経った今は怜一よりも馴染んでいる。  今のところ必要以上に怜一に関わってこようとすることはなく、余計に気味が悪かった。 「佐々先生、あ、あの、だからですね・・」  顎に手を置いて黙り込むと、指示受けをしていた山瀬が相変わらず怯えていた。 「退院先が自宅か施設か転院かで治療方針が変わるのは分かりますか?ちゃんと希望を聞き取ってアセスメントしてから相談してもらえませんか。私も暇じゃないんだ」 「・・す、すみません」  いつもならすかさず入るフォローが今日はない。無意識にナースステーションの中で見知った姿を探す。 「白川先生って、酒強いですか?今度うちの病棟で飲み会するんですけど、俺幹司なんですよー。良かったら来ません?歓迎会も兼ねて」 「いいんですか?せっかくの飲み会に医者が混じっても。気を遣わせてしまいませんか」 「そんなこと気にしませんって。そうだ、よかったら佐々先生もどうですか?」  視線に気が付いた伊吹から、ごく自然に誘いを持ちかけられた。ぐっと握りしめた拳に力が入る。別に誘って欲しいわけから見ていた訳じゃない。 「私に気を遣って頂かなくても結構です。皆さんと白川先生だけでどうぞ」  空気が凍り付く。自分でも言いすぎだろうと思ったが、伊吹までもが怜一の分厚い仮面に騙されていることに苛立ちを抑えられなかった。 「先生、佐々先生。ちょっと待って下さいって」 「すいません、今から他の病棟でICの予定なのであとにしてもらえますか」  いつかのように逃げ出した怜一のこと追い伊吹は追い掛けてくる。 「ああもう、『止まれ』」  そして、同じように不意打ちのグレアで足止めしリネン庫に押し込んだ。 「どうしちゃったの、先生。何かあった?」 「別に何もない」
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