縛り、縛られ、囚われて~DomとSubの幸せな依存〜

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 それは大学病院へ入ってからも変わらず、医師以外の経営陣とも関係を持っていたらしい。 それぞれの思惑と力関係が複雑に絡みあう医局で大学生の時よりも随分えげつないことをしていたのだと知ったのは、怜一自身が巻き込まれたあとのことだ。 「今度、内分泌内科の江藤教授が私的な勉強会をするんだって。佐々くんも一緒にどうかな?」  突然の誘いに驚いた。それまで白川とは特別な交流は無かったし、怜一を誘うメリットがあるとは思えない。 「どうして俺に?」 「だって、佐々くんが江藤教授がこの前の学会で発表していた甲状腺腫瘍の遺伝子検査の論文にとても興味があるみたいだったから」  確かに興味はある。しかし、そんなこと誰にも言ったことはないのになぜと戸惑ったが、 「顔を覚えてもらったら、治療チームに誘ってもらえるかもしれないよ」  気が付いた時には頷いていた。興味のある分野でいずれ自分もその手の専門医になれればと思っていて、その欲には勝てなかった。  指定の日時、徹夜で目を通して質問事項をまとめた山ほどの参考文献やタブレットを抱えた怜一を待ち構えていたのは予想もしていなかった光景で。 「やあ、遅かったじゃないか」 「えっと、これは・・?」  複数の教授や医師が乱れた服装の白川をずらりと取り囲む異様な雰囲気。飢えた動物の群れのような、原始的な欲求丸出しのぎらぎらとした熱気。獲物を値踏みする捕食者の視線。 「待ってたよ、佐々先生。今日は白川先生が特別な趣向を用意してくれると言うものだから」 「君みたいなプライドの高そうな子を支配できると思うと、期待でぞくぞくするよ」  突き刺さるグレアに磔にされ、標本の蝶のように体が押し止められ動けない。 「今日は勉強会のはずでは・・?」  絞りだした声は一笑された。 「『黙れ、動くな』」  体と声の自由を奪われる。眼球だけ動かして白川を見ると、服は半分脱がされた状態で首にはカラーと鎖をつけられ、虚ろな目で露出した江藤の陰茎に口淫を施していた。  狂っている。白川も、Domも、そしてそれに抗えない浅ましい本性を持った自分も。 「『お座り』。勉強会?君たちSubはねえ、俺たちに付き従って黙って言うことを聞いてたらいいんだよ。自分の意志を持つ必要はない」 「『脱いで』。さあ、恥ずかしいところを全部見せろ、惨めに這いつくばって許しを請うんだよ」  四方八方から飛ぶ悪意のあるグレアとSubへの配慮など微塵もないコマンド。もちろんセーフワードなど与えられるわけもなく。  本来信頼を寄せる相手と1:1で行うべきプレイを複数を相手に行う苦痛であっと今に精神が悲鳴をあげ、ドロップに陥る。  そのことをきっかけに大学病院を退職した。 結局白川が何をしたかったのか、そしてなぜ今再び怜一の前に現れたのかは分からない。 おぼろげに覚えていた、底の見えないクレバスに落ちたたような絶望感。足元に入った大きな地割れが怜一を再びに闇に引きずり込もうとしている。 「くそっ・・!」  一人になってから、拳を硬く握りしめてデスクを殴り八つ当たりをした。何度も何度も殴りつけて、関節の皮膚が表皮剥離し血が滲む。憤りで痛覚が麻痺し、痛みは全く感じない。  外は梅雨明けしてから久々の大雨で、眠らない病院の窓からこうこうと漏れる光が濡れるアスファルトに反射し、白い靄がかかっていた。  予定外の入院のせいで診療時間を大幅に過ぎてから午前の外来を終えた怜一は、疲労困憊で職員食堂の入り口にスタッフIDをかざした。
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